これまで、「OL」といえば結婚までの腰掛として働く職場の花、お気楽で職業意識が希薄な人々というイメージが定着しており、女性自身が嫌悪感をおぼえる階層であることはエピローグに書いた通りである。「OL」の職業意識が希薄であるとするならば、それは女性自身の意識の変革が遅れているばかりではなく、日本型企業社会において男性が女性に期待している意識が女性に反映された結果に他ならないのではないだろうか。人生80年の中で何が起きるかわからないという覚悟の上で最低の生活者としての経済的自立への備えが必要であるという認識をもつことを期待されてはいなかった。
女性のライフサイクルと職業の関係は、結婚あるいは出産を契機に家事・育児に専念し、子育て終了後に再就職し、パートジョブに従事するというのが典型的なパターンであった。2002年10月22日付の朝日新聞によれば、第一子出産後に7割の女性が仕事を辞めている。近年、女性の社会進出が進んでいるとはいえ、結婚をあきらめるほどやりたい仕事に就いている女性は少なく、男性と同程度のやりがいを感じられる専門・管理職に就けるのは、ほんのひと握りの女性であり、多くの高卒や短大卒の女性は、一般職の「女の仕事」にうずくまったままなのである。「OL」という存在を、これまで理想とされてきた女性と職業の関係を象徴する階層として捉えたいと思う。ここでは、先ず女性が労働市場において差別されてきた現状を具体的に見ていく。
①女性雇用労働者の増加
総務庁の『日本の就業構造 平成9年就業構造基本調査の解説』によれば、1997(平成9)年10月1日現在の15歳以上人口1億665万3千人をふだんの就業状態別にみると、有業者は6,700万3千人、無業者は3,965万人、1992(平成4)年と比べ、有業者は124万7千人(1.9%)、無業者は246万8千人(6.6%)増加している。男女別にみると、有業者は男性が3,950万8千人、女性が2,749万5千人で、 1992(平成4)年と比べそれぞれ73万2千人(1.9%)、51万5千人(1.9%)増加している。また、無業者は男性が1,223万8千人、女性が2,741万2千人で、1992(平成4)年と比べそれぞれ101万5千人(9.0%)、145万3千人(5.6%)増加している。(表1-1)
有業者のうち、雇用者は5,499万7千人、有業者に占める割合は82.1%で、1992(平成4)年と比べ242万2千人増加、2.1ポイント上昇となっている。男女別にみると、男性が3,313万人(有業者の83.9%)、女性が2,186万7千人(同79.5%)で、1992(平成4)年と比べそれぞれ108万4千人増加(1.3ポイント上昇)、133万8千人増加(3.4ポイント上昇)となっている。(表1-2) 日本の雇用者総数約5,500万人のうち40%を女性が占めているのである。 1)
じつは女性の労働力率は、国勢調査が始まった1920年以来、50%前後であまり変化がなかった。女性の労働力率が減少したのは、むしろ70年代であり、75年に最低値を記録したのであった。(表1-3) にもかかわらず、近年、働く女性が多くなったようにみえるのは、雇用されて働く人の数が増えたためである。1960年頃までは、家族の一員として、夫や父の仕事を手助けする家族従業者が、女性労働力の主要部分を成していた。けれども、日本経済の高度成長に伴って、家族単位の経営が急減し、それに代わって、雇用されて働く労働者が増加し始めた。家族を離れて会社に勤める女性が急増したのである。 2)
女性の雇用労働者が増加したとはいっても、その職種や雇用分布は非常に偏っている。女性が大量に労働市場に入っていくことによって、ジェンダー(性)に結びついた多くの格差や差別が形成されている。根強い性別役割分業意識のもとで、女性労働者に対しては男性とは異なる様々な差別があるのだ。次に、その様子を具体的にみていきたい。
引用文献
1)総務省統計局「労働力調査」によると、平成13年(2001年)の女性雇用者数は2,168万人で総雇用者数5,369万人に占める女性の割合は、引き続き4割を占めている。(厚生労働省雇用均等・児童家庭局編『平成13年版 女性労働白書―働く女性の実情』7頁、(財)21世紀職業財団、2002年)
2)井上輝子『[新版]女性学への招待』108頁、ゆうひかく選書、1997年。