家々の灯りが小石の道を所々照らしている。ぼくはひとりぼっちなんだ、でもさびしくなんかない、マサオはつぶやいた。
もうどれぐらいたっただろうか、ふと月を仰ぐと、月は雲にかくれてみなくなってしまっている。ひんやりとした風がマサオのからだをなでてゆく。マサオは一瞬びくっとした。まるで妖怪女の、おそろしくとがったつめのある指でそっとさわられたみたいだ。
道端では大好きなコスモスの花が揺れている。マサオは、その中の一本をポキッと折った。なんてたくましい花なんだろう、コスモスは。このまえの台風のときだって、屋根より高い大きな木がかたむいたのに、この花は風にたおされてもおきあがった。ぼくも強くならなくちゃいけない。ぼくはこれからひとりで生きてく決心をしたんだ。
(マサオは、ゆうきをふりしぼって歩いて行く。)
やがて、細い通りに出た。目の前には、大木がふさがっている。ここを通りぬけると、神社がある。今夜はそこでとまることにしよう。マサオはどんどん前へ進んだ。マサオのまわりでは木々がざわめいている。妖怪たちがささやきあっているんだろうか。もしかしたらぼくを殺そうとしてそうだんしているのかもしれない。そうしたら、ぼくは、氷の山をかけのぼってお姫さまを助けてあげた騎士みたいに、勇かんにたたかってやる。
母さんは、ぼくが三時半になんかおきれっこないといった。姉ちゃんもちひろもぼくを笑った。ぼくは、みんなにぼくがおとなだってことをみせてやるんだ。
マサオは、足もとに何かしらふれるのを感じた。ぎゃっ、思わず声を出してしまった。なんだ木のはしくれか。マサオはそれを拾うとベルトにはさみ、刀を抜くまねをした。
よし、これがあるから大丈夫だ。妖怪だってなんだって、どこからでもかかってこい。片っぱしから切りたおしてみせるぞ。マサオは、ももを思いっきり高くあげて歩いた。
と、目の前を何かしら黒いものが通りぬけてゆく。今のはなんだったろう、きっと野良犬にちがいない。ひょっとすると仲間がいっぱいいるかもしれない。ぼくをゆうれいとまちがえてほえかかってきたらどうしよう。なにいってるんだ。そんなときには、この剣で切りたおしてやればいいじゃないか。
一じんの風がさあっと吹き抜けていった。木々のささやき声はますます大きくなり、どよめきに変わった。大木がゴリラになった。枝は妖怪の手になりぐんぐん伸びてくる。ぐんぐん伸びて、ぼくに向かってくる。大きな目をつりあげ、ぼくをにらみつけている。裂けそうなほどに大きな口をあけてぼくをのみ込もうとしている。
負けるもんか、負けるもんか、つかまれてたまるもんか、マサオはめくらめっぽうに棒きれをふりまわした。
おや、あの木のすぐそばに白いものがゆらゆらしている。足がない、だんだんぼくの方に近づいてくる。
アッハハハハ・・・、妖怪たちが、どす黒い声で笑っている。老女のしわがれ声がきこえる。
****************************
高校三年生の私が書いたつたないお話の続きでした。
アン・シリーズを繰り返し読んでいた夏、縁側で原稿用紙に汗をたらしながらほんとうに楽しく書いた夏、家族は幸せだと信じて疑うことなどなかった夏。
その時間は、大切な幸せな記憶として私の中に今もずっとあります。
今の混乱はかなり苦しくなってきていますが、自分にとって納得できる終着点を目指して
もうしばらくがんばっていくしかありません。
お星さまになった妹と両親が見守っていてくれると信じてふんばっていこうと思います。
もうどれぐらいたっただろうか、ふと月を仰ぐと、月は雲にかくれてみなくなってしまっている。ひんやりとした風がマサオのからだをなでてゆく。マサオは一瞬びくっとした。まるで妖怪女の、おそろしくとがったつめのある指でそっとさわられたみたいだ。
道端では大好きなコスモスの花が揺れている。マサオは、その中の一本をポキッと折った。なんてたくましい花なんだろう、コスモスは。このまえの台風のときだって、屋根より高い大きな木がかたむいたのに、この花は風にたおされてもおきあがった。ぼくも強くならなくちゃいけない。ぼくはこれからひとりで生きてく決心をしたんだ。
(マサオは、ゆうきをふりしぼって歩いて行く。)
やがて、細い通りに出た。目の前には、大木がふさがっている。ここを通りぬけると、神社がある。今夜はそこでとまることにしよう。マサオはどんどん前へ進んだ。マサオのまわりでは木々がざわめいている。妖怪たちがささやきあっているんだろうか。もしかしたらぼくを殺そうとしてそうだんしているのかもしれない。そうしたら、ぼくは、氷の山をかけのぼってお姫さまを助けてあげた騎士みたいに、勇かんにたたかってやる。
母さんは、ぼくが三時半になんかおきれっこないといった。姉ちゃんもちひろもぼくを笑った。ぼくは、みんなにぼくがおとなだってことをみせてやるんだ。
マサオは、足もとに何かしらふれるのを感じた。ぎゃっ、思わず声を出してしまった。なんだ木のはしくれか。マサオはそれを拾うとベルトにはさみ、刀を抜くまねをした。
よし、これがあるから大丈夫だ。妖怪だってなんだって、どこからでもかかってこい。片っぱしから切りたおしてみせるぞ。マサオは、ももを思いっきり高くあげて歩いた。
と、目の前を何かしら黒いものが通りぬけてゆく。今のはなんだったろう、きっと野良犬にちがいない。ひょっとすると仲間がいっぱいいるかもしれない。ぼくをゆうれいとまちがえてほえかかってきたらどうしよう。なにいってるんだ。そんなときには、この剣で切りたおしてやればいいじゃないか。
一じんの風がさあっと吹き抜けていった。木々のささやき声はますます大きくなり、どよめきに変わった。大木がゴリラになった。枝は妖怪の手になりぐんぐん伸びてくる。ぐんぐん伸びて、ぼくに向かってくる。大きな目をつりあげ、ぼくをにらみつけている。裂けそうなほどに大きな口をあけてぼくをのみ込もうとしている。
負けるもんか、負けるもんか、つかまれてたまるもんか、マサオはめくらめっぽうに棒きれをふりまわした。
おや、あの木のすぐそばに白いものがゆらゆらしている。足がない、だんだんぼくの方に近づいてくる。
アッハハハハ・・・、妖怪たちが、どす黒い声で笑っている。老女のしわがれ声がきこえる。
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高校三年生の私が書いたつたないお話の続きでした。
アン・シリーズを繰り返し読んでいた夏、縁側で原稿用紙に汗をたらしながらほんとうに楽しく書いた夏、家族は幸せだと信じて疑うことなどなかった夏。
その時間は、大切な幸せな記憶として私の中に今もずっとあります。
今の混乱はかなり苦しくなってきていますが、自分にとって納得できる終着点を目指して
もうしばらくがんばっていくしかありません。
お星さまになった妹と両親が見守っていてくれると信じてふんばっていこうと思います。