『たんぽぽのお酒』より(3)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/c/6491f8b2784506e08241d92a50063320
「ダグラスとトムとチャーリーが日かげのない通りをあえぎあえぎやってきた。
「トム、さあ、正直に答えるんだよ」
「なにを正直に答えるの?」
「ハッピー・エンドはいったいどうなったんだい」
「土曜のマチネーの映画にあったじゃないか」
「そりゃそうだ。でも実際のほうはどうなんだよ?」
「ぼくにわかっていることは、夜にベッドに入ると気分がいいってことだけさ、ダグ。それが一日一回のハッピー・エンドね。つぎの朝起きてみたら、ものごとは悪い方にむかっているかもしれないよ。でもぼくとしたら、あの晩寝ようとして、ベッドにしばらく横になっていただけですべてが良かったな、とそれだけ憶えていればそれでいいんだ」
「ぼくはフォレスターさんとミス・ルーミスのことを話しているんだそ」
「どうしようもないさ。あの人は死んだんだもの」
「わかっているよ!けどだれかがそこでしくじったとおもわないかい?」
「フォレスターさんは写真と同じ歳だとおもい、彼女のほうはずっと一兆年も年をとったままだったということかい?とんでもない、これはいかしているとおもうよ」
「いかしているって、どうして?」
「フォレスターさんがここをちょっと、あそこをちょっとと話してくれてね、最後にとうとうぼくが全部をまとめあげたんだけど、その何日間はーほんと、ぼくはめちゃくちゃに泣いちゃったよ。なぜかはわかりもしないんだ。あの話はひとつも変えたくないな。変えたりしたら、それについてなにを話すというんだい?なにもありゃしないよ!それに、ぼくは泣き叫ぶのが好きさ。思いきり泣いたあとは、また朝みたいで、はじめから一日をやりなおすのさ」
「もう全部聞いたよ」
「兄さんは自分も泣き叫ぶのが好きなのに、認めようとしないだけなんだ。とにかくおもうぞんぶん泣き叫べは、すてべよくなるんさ。そしてそこにその人のハッピー・エンドがあるんだ。そのときはまたもどっていって、人びととともに歩きまわる用意ができているんだな。するとそこからなにやかやがはじまるんだ。きっといまにも、フォレスターさんはようく考えてみて、それしか方法がないことに気づき、おもうぞんぶん泣き叫んで、それからあたりを見まわしてみると、また朝になっているのに気づくことだろうなあ。たとえほんとは午後の五時だとしてもさ」
「それはぼくはハッピー・エンドとはおもえないな」
「一晩ぐっすり眠ること、十分間泣きわめくこと、チョコレート・アイスクリーム一パイント分、あるいはこの三つの全部、これがいい薬なんだ、ダグ。医学博士トム・スポールディングのいうことを聞きたまえ」
「おい黙れよ、きみたち」と、チャーリーがいった。
「もうそこだぞ!」
彼らは角を曲がった。」
(レイ・ブラッドベリ著、北山克彦訳、『たんぽぽのお酒』晶文社、1997年8月5日初版、1999年1月10日二刷、255-256頁より)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/c/6491f8b2784506e08241d92a50063320
「ダグラスとトムとチャーリーが日かげのない通りをあえぎあえぎやってきた。
「トム、さあ、正直に答えるんだよ」
「なにを正直に答えるの?」
「ハッピー・エンドはいったいどうなったんだい」
「土曜のマチネーの映画にあったじゃないか」
「そりゃそうだ。でも実際のほうはどうなんだよ?」
「ぼくにわかっていることは、夜にベッドに入ると気分がいいってことだけさ、ダグ。それが一日一回のハッピー・エンドね。つぎの朝起きてみたら、ものごとは悪い方にむかっているかもしれないよ。でもぼくとしたら、あの晩寝ようとして、ベッドにしばらく横になっていただけですべてが良かったな、とそれだけ憶えていればそれでいいんだ」
「ぼくはフォレスターさんとミス・ルーミスのことを話しているんだそ」
「どうしようもないさ。あの人は死んだんだもの」
「わかっているよ!けどだれかがそこでしくじったとおもわないかい?」
「フォレスターさんは写真と同じ歳だとおもい、彼女のほうはずっと一兆年も年をとったままだったということかい?とんでもない、これはいかしているとおもうよ」
「いかしているって、どうして?」
「フォレスターさんがここをちょっと、あそこをちょっとと話してくれてね、最後にとうとうぼくが全部をまとめあげたんだけど、その何日間はーほんと、ぼくはめちゃくちゃに泣いちゃったよ。なぜかはわかりもしないんだ。あの話はひとつも変えたくないな。変えたりしたら、それについてなにを話すというんだい?なにもありゃしないよ!それに、ぼくは泣き叫ぶのが好きさ。思いきり泣いたあとは、また朝みたいで、はじめから一日をやりなおすのさ」
「もう全部聞いたよ」
「兄さんは自分も泣き叫ぶのが好きなのに、認めようとしないだけなんだ。とにかくおもうぞんぶん泣き叫べは、すてべよくなるんさ。そしてそこにその人のハッピー・エンドがあるんだ。そのときはまたもどっていって、人びととともに歩きまわる用意ができているんだな。するとそこからなにやかやがはじまるんだ。きっといまにも、フォレスターさんはようく考えてみて、それしか方法がないことに気づき、おもうぞんぶん泣き叫んで、それからあたりを見まわしてみると、また朝になっているのに気づくことだろうなあ。たとえほんとは午後の五時だとしてもさ」
「それはぼくはハッピー・エンドとはおもえないな」
「一晩ぐっすり眠ること、十分間泣きわめくこと、チョコレート・アイスクリーム一パイント分、あるいはこの三つの全部、これがいい薬なんだ、ダグ。医学博士トム・スポールディングのいうことを聞きたまえ」
「おい黙れよ、きみたち」と、チャーリーがいった。
「もうそこだぞ!」
彼らは角を曲がった。」
(レイ・ブラッドベリ著、北山克彦訳、『たんぽぽのお酒』晶文社、1997年8月5日初版、1999年1月10日二刷、255-256頁より)