ゴールデンウイークの休みを利用して、国立近代美術館で開催中のフランシス・ベーコン展に行く。フランシス・ベーコンと言えば、私は、学生時代に社会思想史の授業で出てきた16世紀のイギリスの哲学者を思い出すのだが、全くもって別人で、1992年に81歳で亡くなった20世紀のアイルランドを代表する画家である(ということをはじめて知った)。
友人に薦められて足を運ぶ気にはなったものの、馴染みのない現代絵画ということで展覧会への期待はさほど大きくなかった。しかし、「没後の大規模な個展としては日本初、アジア初」というマーケティング・コピーに偽りはなく、充実した展示とベーコンの絵画が持つ強力な磁力を十二分に伝える印象的な展覧会だった。
ピカソの絵を思わせるデフォルメされた対象、暗めの色を多用した独特の色遣い、鑑賞者になぞ掛けするような仕掛け。画家の個性が絵全体からほとばしっている。見るものはこの画家のエネルギーに負けずに、立ち向かう体力と気力が要求される。画家と鑑賞者の緊張関係がはらまれる、そんな感じ。
展示の仕方も興味深い。「ベーコンにとって最も重要だった「身体」に着目し、その表現方法の変遷を3章構成でたどろうとするテーマ展」(展覧会HPより)とする企画は、ベーコンの作品を単に点として鑑賞するだけでなく、線や面として複数次元で見ることができ興味深かった。また、私には、ベーコンの絵にヒントを得たという土方巽の舞踏フィルムが、身体というテーマを扱いながらも、絵画と演技というメディアによる表現の違いが見えて興味深かった。
まだまだ日本では知名度は高くないと思われるフランシス・ベーコンだが、是非、訪問をお勧めしたい。ゴールデン・ウイーク中ではあったものの、閉館1時間半前の3時半に入館したら、かなりゆっくりと自分のペースで見れた。特に閉館20分前は観客もまばらで、自分の美術館になったようなお得気分を味わえ、なかなかこの手の東京の美術館では得がたい体験だった。
5月26日まで。