「戦争の日本近現代史」が面白かったので、同じ著者の本を探して読んでみた。2008年発刊なので、こちらの方が新しい。
内容は、筆者が神奈川の名門私立高校、栄光学園の生徒(歴史研究会の面々だから、相当レベルは高い)たちに、明治以降の戦争について講義した5講を、書籍化したものである。扱っている範囲、トピックスは『戦争の日本近現代史』とほぼ同じで、重なる内容もあるが、「時々の戦争は、国際関係、地域秩序、当該国家や社会に対していかなる影響を及ぼしたのか、また時々の戦争の前と後でいかなる変化が起きたのか」をテーマに、より幅広く視野を取っている。
中高生相手の授業を口述したものだから、簡単に読めるが、内容はとても濃いので、丁寧に読まないと、内容やロジックは頭に入ってこない。私には「戦争の日本近現代史」を読んだので、復習にもなって良かった。
新しい事実としての学びは、日中戦争における思想家「胡適」の存在。 初めて知った名前だが、彼がほぼ完璧なまでに日中戦争や太平洋戦争の行方を予言していたのには驚いた。
一方で、「戦争の日本近現代史」の感想記事でも書いたが、筆者の問題意識やロジックが明確な分、かえって史実の抽出の仕方、解釈の仕方についての妥当性について、読者が検証できないジレンマは残る。例えば、胡適の思想についても、その思想が極めてエッジの効いたものであることは理解できるものの、「こうした思想が国を支えた思う」とまでまで書かれると、「本当ですか?」「根拠は何?」と尋ねたくなる。
また、相手が中高校生のためか、ロジックよりも筆者の思いが先行して読めるところが、所々あったのは気になった。史実を明確にして、必要な反省を行うことはもちろん賛成だが、筆者が心理的に中国寄りすぎるのでは?と読めるところは、違和感があった。
ただ、真摯に歴史から学ぶという筆者の姿勢は尊敬に値する。本書は、きっと最近の安倍首相周りの人たちからは、自虐史観というレッテルを貼られかねない本であろうが、扇動的ではあるけども、「科学的」(真理を追究しようとするもの)とは思えず、「一時的に溜飲を下げるだけ」(p333)のアンチ自虐史観の人たちの本よりはずっと良いと思う。そういった意味で、本書は歴史の面白さと難しさの両方を学ばせてくれる本である。