筆者によるアメリカ現代社会レポート第3弾。本書も、新聞記事などで単発的には目にしても、情報としてまとまって触れることの少ないトピックスについて詳しく陽をあてているところはとても参考になる。今回は、多国籍企業による寡占化や遺伝子組み換え作物が浸透する中での食料の安全性の問題、民営化が進む公共サービスの状況、企業・業界の政府への影響力強大化といった問題を取り上げている。
米国でこれだけの遺伝子組み換え食物が流通している(表示もしていない)ことや、自由貿易の拡大によりアメリカの食物を世界市場に浸透させていくアメリカの「世界戦略」については私も認識不足だった。現在議論中のTPP交渉も、こうした米国の世界戦略の一環で、「脅威」が日本にも迫りつつあることが分かる。
一方で、前著の2冊の感想でも指摘したが(その1→、その2→)、筆者のライティングスタイルは本書においても違和感が残る。
一つは事実と非事実の区別がつきにくい扇動的ともいえる文章である。
例えば「(チャータースクールにより)デトロイトでは教育難民となった子どもたちが路上にあふれ、失業した教師たちは州を出るか、食べていかれずにSNAP(フードスタンプ)を申請することになった(p173)」。2年ほどミシガン州に住んだ個人的経験に照らしても、中国の都市部やインドじゃあるまいし、デトロイトで教育難民となった子どもたちが路上にあふれるなんてことは事実としてはありえないだろう。筆者にすれば、一つの比喩的表現だということになるのかもしれないが、文学作品でないのだから、こうしたノンフィクションは事実を的確に読者に伝えるのが大切で、読者の感情に訴えて事実を煙に巻くことではないはずだ。これはあくまで細かい一例であるが、本書は極めて事実と事実っぽいものの判断がつきにくい。
二つには、「企業対市民」といった極めて単純な2項対立に問題を押し込めて、対案のない万年野党的な批判が続く違和感である。筆者の批判的精神は敬意を表したいが、昭和時代の「保守対革新」にも似た紋切り型の構造化や一方的な企業批判はあまりにも単純すぎないか?また、評価がまだ定まっていない「遺伝子組み換え食物」についても無条件に悪と決めつけている恣意性も気になる。
三つ目は、筆者の報告や主張を裏付ける情報源の提示が少ないことである。本書の情報は多くが、関係者からのインタビューで成り立っている。当然、インタビューの聞き取りや解釈には、筆者なりの文献やインターネットでの情報収集があったと思う。しかし、そうしたデータの出典については開示が無い。ごく一部の、それも主に批判側からのインタビューだけで客観的なレポートはできないだろう。少なくとも参考文献の掲載は必須と考える。
上記のような問題点(大袈裟で扇動的な文章、単純な構造化、出典の不明示)のため、せっかく優れた問題提起を行っているにも関わらず、本書は「胡散臭い」、もしくは「昭和時代のいわゆる左翼市民運動のプロパガンダ的」な匂いを放ってしまっている。とても残念であるので、岩波書店編集部は是非、過去の2冊も含めて、新書版で無くても良いので十分なページ数を与えて、より信頼性を高めた改訂版を出版してほしい。
★★★☆☆