ロンドン在住時に幾度も足を運んだテート・ブリテンのターナー・コレクションが上野にやって来るとあれば行かないわけにはいかない。いつもは会期終了間際にあわてて駆け込む美術展だが、今回は開幕早々に出かけた。
正直言うとテート・ブリテンでは、ターナーの絵はじっくり見ると言うよりは、いつも何となく見ていたし、似たようなモチーフの絵がとっても沢山あるので、今回来日した展示作品を観ていると「こんなのあったけなあ~」という絵が沢山あった。リッチモンド・ヒルからの風景画(これはテート所蔵ではないが)や旅行で出かけた湖水地方のバタミア湖の絵など、懐かしい再会が幾つかあった。ターナーの絵にはイギリスの風土が染み込んでおり、絵そのものから描かれた風景を超えたイギリスの匂いを発している。涙が出そうになった。
《バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨》
1798年発表 油彩、カンヴァス 88.9×119.4cm
≪2010年10月に訪れた湖水地方の風景 バターミア湖ではなかった気がするが雰囲気は同じ≫
私自身がそうだったが「ターナーの絵はちょっと」と思う方は是非、本展覧会に足を運んで、ターナー漬けになってみてほしい。回顧展なので、若き日(14歳で王立美術学校へ入学)から晩年に至るまでのターナーの絵が鑑賞できる。きっとイメージが変わるに違いない。イギリスやイタリアの風景画が山盛りで、この展覧会だけでバーチャル欧州・英国旅行も楽しめる。イギリスの風景画とイタリアの風景画の光の違いを是非、楽しんでほしい。イタリアを描いた絵には、イギリスから南欧に旅して人が感じる強い太陽の光に対する羨望が滲み出ている。
いつもながらであるが、夜間開館日の閉館1時間半前入場をお薦めしたい。ゆっくり、マイペースで鑑賞できる。