中世から現代にいたるまでの英国美術史について包括的にまとめた入門書。新書とはいえ、内容は質量ともに充実しており、記述は絵画だけでなく庭園、建物などの芸術品にまで及び射程も広い。イギリス美術の流れが一望でき、知的好奇心を誘う内容になっている。
個人的には、ホガース等のイギリス風俗画の解説(第4章)やアーツアンドクラフツ運動など絵画彫刻以外の生活のための芸術活動としてイギリス芸術の貢献(第8章)が、未知のことが多く勉強になった。とかく大陸に比べて傍流扱いされる英国美術だが、相互に影響を受け与えている点も興味深かった。
これだけの内容を新書の内容に収めるというのは、筆者がこの道に精通したプロであることを十分に伺わせるし、岩波新書の編集力もあるのだろう。テーマがテーマだけにかなりニッチな層向けかもしれないが、英国美術に関心のある方には自信をもってお勧めできる一冊だ。