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人工知能研究、開発の最前線を非常にわかりやすくレポートした本。こうした科学技術ネタを、このように誰にでも分かるように書ける人はなかなかいないと思う。
興味深かったところをいくつか。
・AI研究は1960年代からいくつかの冬の時代を経て、今、ビッグデータと結びついて大きく飛躍しようとしている。
・現代のAI研究は統計・確率的な考え方をベースとした「技術」を主流として成果を出しているが、自然科学の原理の根本的解明を経ていないの「技術」は邪道で将来的な発展はないとするチョムスキー氏(世界的言語学者)のようなルールベースの古典的AI研究の立場からの批判もある。
・第3のアプローチとして、ニューロンとシナプスから構成される人間の脳の学習プロセスをコンピュータ上に再現しようとする「ニューラル・ネットワーク」があり、最近はディープ・ラーニングとして成果を上げている。
・AIの本質はインターフェイス革命であり、機械と人間の関係を新たな局面へと導く技術である。現代は、人間が機械に合わせる関係から、機械が人間にあわせる関係に転換を遂げようとしている。巨大なビジネスチャンスが開ける可能性と同時に、機械やソフトウエアが人間の手に余る進化や振る舞いをするかもしれない危険性もある。
・AIの発展がもたらす問題点は(1)人間が機械(システム)に依存しすぎることで生じる危険性、(2)人間が機械(システム)に雇用や存在価値を奪われることへの不安に大別される。特に、前者については、ブラックボックス化することでコンピュータが人間を超える能力を得る可能性もある。
こうまとめて書いてしまうと面白くないが、グーグルの自動運転車、アップルのSir・I 、アイロボット社の家庭用ロボットなどなど、様々な事例もあるので興味深く読めるし、一般化と具体例のバランスが取れているので理解が深まる。
記述は平易であるが、内容は濃く、テーマは重い。特にこの世の中、グーグル、アップルなどの「技術」がもてはやされる昨今だけに、自分たちが利用している「技術」、これからの「技術」について、本書を読んで客観的に考えてみることは非常に大切。おススメしたい一冊だ。