先週末に東京・春・音楽祭でワーグナー《ワルキューレ》のスーパーパフォーマンスを見せてくれたN響。まだ1週間も経たないうちに、3月はお休みだった定期演奏会が再開。あれだけの長時間でエネルギーを要する演奏会のあと、すぐに気持ちを切り替えてリハーサルとか準備できるものなのだろうか?今日は、消化演奏会になりはしないだろうか。と素人なりに心配しながら臨んだ演奏会。でも、やっぱり余計な心配で、しっかりプロの仕事をしてくれた。
指揮はドイツ出身のセバスティアン・ヴァイグレ。私は全くの初めてだが、ベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを皮切りに、欧州でも名門のリセウ歌劇場やフランクフルト歌劇場の音楽監督(フランクフルトは音楽総監督)を歴任しており、歌劇場でしっかり着実にキャリアを積んでいる。プログラムもベートーヴェンの交響曲第6番と、抜粋版であるが先週に引き続きワーグナー楽劇から2つという、なかなか聴きごたえがある構成。
歌劇場バックグラウンドという先入観があるからだろうか。冒頭の「田園」では、前半は歌のように音楽が穏やかに優しく流れ、第3楽章以降はダイナミックに動き、まるで物語を読んでもらっているような感覚になる。特に奇をてらったころはないのだが、音楽が自然と体に染み込んでいくような演奏だった。弦と木管の音色の良さが秀逸で、この曲の持つ良さが無理なく表現されていたと思う。
後半のワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」と「ニュルンベルグのマイスタージンガー」から抜粋版。ここでは、「それはほんとうか」とボーグナーのことば「明日は聖ヨハネ祭」を歌ったヨン・グァンチョルのバスが秀逸だった。太く、威厳ある歌声は広いNHKホールでも響きわたる。この2曲で終わってしまうのが何とももったいなく、続けて聴きたくなる。(昔から不思議なのだが、どうして韓国からはワールドクラスの男性歌手が多く出るのだろう。先週もシム・インスンが素晴らしかったし、ロイヤルオペラでも韓国系の歌手がよく活躍していた。)
オケも先週の「ワレキューレ」を思い出させる好演だったが、金管陣はもう一つに聞こえた。金管が大活躍するはずの「マイスタージンガー」の前奏曲でももう一つ突き抜け感がなかったし、何より音が雑っぽかった。
この日は、午前中からの山手線の支柱倒れによる運行止めの影響か、はたまたN響のほかにも4つのオケがバッティングしていた為か、2,3階席には空席が目立った。それでも、会場はそれを感じさせない大きな拍手だったし、それに相応しい演奏だったと思う。セバスティアン・ヴァイグレの指揮はこのプログラムだけのようなのが何とも残念だが、また是非、来日してほしい。
第1805回 定期公演 Aプログラム
2015年4月12日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール
ベートーヴェン/交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」― 前奏曲、「それはほんとうか」*、イゾルデの愛の死
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」― 「親方たちの入場」、ポーグナーのことば「あすは聖ヨハネ祭」*、(第1幕への)前奏曲
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
バス*:ヨン・グァンチョル
No.1805 Subscription (Program A)
Sunday, April 12, 2015 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall
Beethoven / Symphony No.6 F major op.68 “Pastorale”
Wagner / “Tristan und Isolde” - Vorspiel, ‘Tatest du’s wirklich?’*, Isoldes Libestod
Wagner / “Die Meistersinger von Nürnberg” - Aufzug der Meistersinger, Ansprache des Pogner: ‘Das schöne Fest, Johannistag’*, Vorspiel (I. Aufzug)
Sebastian Weigle, conductor
Kwangchul Youn, bass