1945~1949の4年間の画家・藤田嗣治と彼を陰で支えたアメリカGHQのフランク・シャーマンの交流を、これまで陽を見ることがなかった資料等を駆使して明らかにしたノン・フィクション。私自身は、藤田嗣治のことはいくつかの回顧展を見て知った程度だが、人間・藤田の一面を知ることができる貴重な一冊になっていると感じた。
二人の交流から藤田の素顔に接近できるのが興味深い。戦時中に軍の要請に応え『アッツ島玉砕』などの戦争画を描いた藤田だが、彼がどのような思いで描いたのかなど、彼の芸術に向かう姿勢や考えがわかる。
人の運命や縁の不思議さ、大切さを感じさせる一冊だ。 シャーマンのような人を呼び寄せた藤田の磁力も凄いし、藤田を活かし続けさせたことになったシャーマンの実行力も凄い。シャーマンがいなければ、藤田のニューヨーク行き、そしてその後のパリ行きも実現することはなかっただろう。彼のような人物がGHQに居て日本に派遣されたというのも、アメリカの占領政策やGHQの奥深さも伺い知れる。日本との懐の違いを様々と見せつけられる。
タイトルは藤田が君代夫人へ言っていた言葉(「藤田が日本を捨てたのではなく、日本が藤田を捨てた」)から取ったものだが、必ずしも本の趣旨とあってない。副題の『藤田嗣治とフランク・シャーマン1945~1949』で十分だと思う。
【目次】
戦時下の闘争
フランク・シャーマン
GHQの戦争画収集
フジタはどこに
挑発
出会い
戦犯追及
フジタとの日々
シャーマンルーム
日展の抗争
二人の裸婦
妨害
ケネディ画廊の個展
作戦
京都遊興三昧
光明
フジタを探せ