
大報恩寺(千本釈迦堂)という京都の寺は全く知らなかった。近隣にある北野天満宮は訪れたことがあるが、この寺には全く気付かなかった。だが、ここの本堂は京都で最も古い鎌倉時代の木造建築として国宝指定を受け、慶派の仏像を多数持つ歴史的名刹なのである。開創は1220年(承久2年)。京都は広く、深いことを改めて実感。

本展は、その大報恩寺から本尊「釈迦如来坐像」(行快作・重要文化財)を初め、快慶による「十大弟子立像」(重要文化財)や肥後定慶の「六観音菩薩像」(重要文化財)が揃って展示される。まさに一家総出の引っ越し展示である。余計なことだが、この会期中に大報恩寺を訪れた人は運が悪いとしか言いようがない。
夫々が表情豊かでリアリティたっぷりの「十大弟子立像」が本尊様「釈迦如来坐像」を囲むように配置してある展示空間は圧巻である。十大弟子は優しく人を包み込むような表情の阿難陀立像(あなんだりゅうぞう)から、松平健似の富楼那立像(ふるなりゅうぞう)や閻魔様のような大迦葉立像(だいかそうりゅうぞう)まで様々で、夫々の個性に魅かれる。
中心に配置された本尊の「釈迦如来坐像」は鎌倉時代の作とは思えないほど、綺麗だった。金の塗も綺麗に残っており、ふくよかな顔はつやがあってすべすべしている。全く傷みを感じないのは、普段は秘仏として、年に数回しか公開されないからだろうか。台座の蓮の葉にも緑の彩色が残る。
奥の部屋にある肥後定慶の「六観音菩薩像」も一つ一つの保存状態が良いのが印象的。こちらの菩薩さまも表情が豊か。聖観音菩薩立像、千手観音菩薩立像、馬頭観音菩薩立像、十一面観音菩薩立像、准胝観音菩薩立像、如意輪観音菩薩坐像の夫々が地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人、天を菩薩像に見立てているらしい。個人的には、如意輪観音菩薩坐像の「考える像」が好き。

夜間開館での訪問だったので、空いている中、好きなペースで見ることが出来た。会場は平成館の2階の半分を使っており、通常の特別展よりは場所的には半分だが、一定時間にすべてを見なくてはというプレッシャーから解放されるので、じっくり、気持ちに余裕をもって見ることができてよい。結局、1時間ちょっと過ごしたので、出展数の多寡にかかわらず、人の集中できる時間というのは変わらないようだ。

《夜の国立博物館》