『蒼穹の昴』から始まった中国近現代を描く浅田版歴史大河小説シリーズの第五部。今回は清の最後の皇帝であり、北京を追われた溥儀が、日本の傀儡ではありながらも満州国皇帝に即位するまでの話が語られる。 蒙塵とは「天子が、変事のために難を避けて、都から逃げ出すこと。」(デジタル大辞泉より)
相変わらず、作者のストーリー展開のうまさ、セリフの中に中国語を適度に混ぜることで生じるリズム感、感情移入を誘う心情描写などは感服する。ページをめくる手が止まらない。どこまでが史実で、どこからが物語なのかは区別がつかないが、時代の匂いも感じ取ることができる。
登場人物がどれも個性と魅力に満ちている。張作霖の子・張学良、側妃・文繡、満州馬賊・馬占山、宦官・李春雲と馬賊の李春雷などなど。人間の多様さや奥深さにひかれる。
ちょっと首をひねったのは、物語としては全4巻を通じての起承転結的な展開が乏しく、終盤に向けての高揚感が乏しいことぐらいか。これも第5部に向けての布石なのかもしれない。
全4巻をあっという間に読んでしまったが、読み応えはたっぷりだった。