一幕終了時点では「今回はハズレ?」という呟きが脳裏を走ったけど、終わってみれば圧倒的感動とまでは行かないまでも、満足な公演でした。
一幕は正直冴えなかった(ように感じた)。タイトルロールのケール、演奏ともに単調。冒頭のダンスは良かったけど、舞台や照明がアメリカのストリップ劇場を思い出させるような雰囲気で、全然「タンホイザー」の世界に入っていけず。それが、エリーザベトが登場した2幕から段々の盛り上がりを見せ、3幕はケールも挽回し、ヴォルフラムのトレーケルも存在感あふれ、緊張感ある舞台となりました。
歌手陣では、個人的ブラボーだったのは、伸びのある清らかなソプラノだったエリーザベトのキンチャ、3幕のソロが涙ものだったヴォルフラムのトレーケル、安定感抜群な領主ヘルマンの妻屋秀和でした。加えて、隠れ一位と思ったのは新国立合唱団。2幕の巡礼団の合唱などはお涙ものでしたし、ソロがもう一歩のところを合唱団が支えていたところもありました。タイトルロールのケールのテノールは決して悪くないのだけど、3幕を覗いては深みや豊かさと言った点で物足りなく感じました。
今回の演奏は正直、ちょっと好みとは言えなかったかな。節々に美しい弦のアンサンブルやオーボエのソロはあり、また最終幕での盛り上げにも胸動かされましたが、通して振り返ると、タンホイザーならではの重層的で畳み込むような迫力が弱く、抑揚薄い演奏だった印象です。指揮者のもって行き方によるんでしょうね。
演出は、所々に映像も取り入れた現代ものの香りが漂う舞台です。前述のとおり1幕は大いに不満があったものの、2幕以降は、場のイメージに適合したセンスある美しい演出という印象でした。
ワーグナーのオペラはどうしても期待が大きくなるだけに、公演側は大変でしょうね。ワグナーオペラの帰り道は音楽が頭から離れず、中毒的な身体反応を示す場合が多いのですが、今回はそこまで至らず。そこが、私的には、何となく物足りなさも残ったと感じた理由でしょうか。
《4階の最深部から》
スタッフ
指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:ハンス=ペーター・レーマン
美術・衣裳:オラフ・ツォンベック
照明:立田雄士
振付:メメット・バルカン
キャスト
領主ヘルマン:妻屋秀和
タンホイザー:トルステン・ケール
ヴォルフラム:ローマン・トレーケル
ヴァルター:鈴木 准
ビーテロルフ:萩原 潤
ハインリヒ:与儀 巧
ラインマル:大塚博章
エリーザベト:リエネ・キンチャ
ヴェーヌス:アレクサンドラ・ペーターザマー
牧童:吉原圭子
合唱:新国立劇場合唱団
バレエ:新国立劇場バレエ団
管弦楽:東京交響楽団
CREATIVE TEAM
Conductor: Asher FISCH
Production: Hans-Peter LEHMANN
Set and Costume Design: Olaf ZOMBECK
Lighting Design: TATSUTA Yuji
Choreographer: Mehmet BALKAN
CAST
Hermann: TSUMAYA Hidekazu
Tannhäuser: Torsten KERL
Wolfram von Eschenbach: Roman TREKEL
Walther von der Vogelweide: SUZUKI Jun
Biterolf: HAGIWARA Jun
Heinrich der Schreiber: YOGI Takumi
Reinmar von Zweter: OTSUKA Hiroaki
Elisabeth: Liene KINČA
Venus: Alexandra PETERSAMER
Ein junger Hirt: YOSHIHARA Keiko
Chorus: New National Theatre Chorus
Ballet: The National Ballet of Japan
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra