ベストセラーとなった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』が現代イギリスの社会・教育事情のレポとしてとっても良書であったので、今年6月に発刊された本書を読んでみた。ブレグジット議論でイギリスが割れる中、筆者と交流があるワーキングクラスのオジサンたちの実情から、移民、福祉国家、階級社会の変化、世代格差などの現代イギリス社会を切り取ったエッセイ(ルポルタージュ)である。
本書を含めまだ2冊しか読んでないが、筆者の著作が良いのは、現地のイギリス人社会で生計を立てている経験の中からの観察・考察であるが故に、具体的でリアリティに溢れていることだ。そして、その日々の経験が単なる事実の組み合わせとしてでなく、社会的・政治的・歴史的背景をもとに観察され記述される。あまり比較はしたくないが、日本人のジャーナリストが、取材に出かけて取ってくる情報とは事実の迫力が違う。
私自身、トランプの支持層についての著作については何冊か読んだが、それと対をなしているかのようなイギリスのブレグジットについては新聞、SNSで読んでいた程度なので、本書でその支持層の考え方や背景の一部が分かって勉強になった。本書の主人公であるおじさんたちの「古き良き」イギリスへの思いは、4年程度ではあるが私のイギリス生活を振り返っても思い当たる経験はあった。
印象深かったコメントは、経済成長期と現代の若者に関するくだりだ。尾崎豊の反抗は「盗んだバイクに乗って学校のガラス窓を打ち割って廻っても、その気になれば大学に行って就職して家庭を築けた経済成長時代の若者」によるものであり、「縮小社会言説がまことしやかに語られる時代の若者たちが天真爛漫にガラス窓を打ち割るわけがない。」「「敗者の美」なんて風流なものを愛でたのももう昔の話で、明けたら下層民(チャヴ)にしかなれない若者たち。」今どきの若者を語る時に、決して見逃してはいけない一側面だと思う。
筆者は政治家、官僚、学者、ジャーナリストの類でないので、本書に解決策を期待してはいけない。私自身は、筆者が批判の矛先を向ける「緊縮財政」だけが問題ではないと思うし、「緊縮財政」はこれまでの「EU」の政策とも深く結びついているはずだ。なので、政策的には必ずしも筆者の意見に賛同できないところもをある。そうした点を踏まえても、筆者の人間に対する優しい視線は素晴らしいし、読んでいて新たな視点を与えてくれる。
本書もお勧めできます。