久しぶりの演劇鑑賞。太平洋戦争終戦直前の九州の軍需工場(もともとは染料工場)で働く職工、管理者、動員学徒たちを巡る人間ドラマ。日本必勝の世間的空気の中で、個人としての思考の深さ、信念、政治感覚、倫理観が問われる。
作品自体、重く、考えさせられること多いが、フルオーディションでキャスティングされた役者たちの熱演、名演が特に光った。知性・人間味に溢れながらも、若さゆえ正論と建前の狭間で悩む主人公の田宮を演じる久保田響介、おちゃらけ系の見習工矢部を演じる八頭司悠友の二人が特に舞台にエネルギーを与えていた。そして、世情に関わらず、自分の仕事を黙々と遂行する責任職人の有福正志の台詞にも魅かれる。彼らの「動」「静」織り交ぜた迫力ある演技に加えて、登場人物夫々が個性を発揮し、3時間近い上演中、片時も舞台から目が離せなかった。
場の変化は一切ないが、日や時間の経過が推し量れる設定や舞台を効果的に活用した演出で、完成度高く質の高さを感じる舞台だった。結末もハッピーエンドにはならないが、「やっぱり、演劇はいいわ」としみじみ噛みしめられる作品である。
2021年7月13日 @新国立劇場 小劇場
スタッフ
【作】宮本 研
【演出】千葉哲也
【美術】伊藤雅子
【照明】中川隆一
【音響】藤平美保子
【衣裳】中村洋一
【ヘアメイク】高村マドカ
【アクション】渥美 博
【方言指導】下川江那
【演出助手】渡邊千穂
【舞台監督】齋藤英明 清水浩志
キャスト
天野はな、有福正志、神農直隆、河原翔太、久保田響介、清水 優、神保良介、高橋ひろし、田尻咲良、内藤栄一、奈良原大泰、平尾 仁、八頭司悠友、若杉宏二