その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 (ハヤカワ文庫SF、2019)

2023-07-07 07:33:34 | 

数年前に、人類と地球外生命体との接触を描いた劉慈欣『三体』を読んで、そのスケールの大きさや、知的好奇心を刺激される様々な切り口がとっても印象的であった。(もっとも『三体』は三部作の第一部を読んだだけないので、読んだことにはならないかもしれない)そして、SF小説を通じて、現代中国の作家たちが思い描く世界観や技術観をもう少しのぞいてみたいという興味が湧いた。

なかなか実行に移せなかったのだが、ようやくこの1冊を読むことができた。手軽に複数の作家の作品を体験したく、短編集を選んでみた。中国人SF作家7名、計13作品を集めたこのアンソロジーは、それぞれの作品が、異なった作風で違った魅力を放っていて、SF小説好きには自信を持ってお勧めできる作品集だ。

遺伝子操作された鼠ロボットの駆除、ロボット・AIで管理された町、幽霊たちのコミュニティ、AIと老人の交流、言論・思想の自由を奪われた国に生きる人間、秦の始皇帝の命により三百万の兵士でコンピュータの原型を作り上げた学者、「三体」の元ネタとなった異星からの侵略などなど、実に多彩な世界やテーマが扱われる。

中国人作家によることがどれだけ作品に影響を与えているのかどうかは、私には判別不可能だが、唸らせられる奇想が一杯ある。自分自身の思考実験装置としても面白い。

現代中国版『1984』とも言える馬伯庸「沈黙都市」や、街が折り畳められることで時空を分割した並行社会が併存する郝景芳「折りたたみ北京」などは、ハードタッチなSF王道的な作品で良かったが、個人的好みとしては、「ゲゲゲの鬼太郎」の世界観にかなり似通った印象を持った夏笳「百鬼夜行街」のほのぼのとした作風が魅力的だった。

巻末には本書にも作品が掲載されている3名の作家による、現代中国SF論とも言えるエッセイが寄稿されており、中国SFの立ち位置が理解できる。

図書館で借りて読み始めた本だが、手元に置いておきたく、読後すぐにアマゾンでぽちった。

 

【収録作品】

序文 中国の夢/ケン・リュウ

鼠年/陳楸帆

麗江の魚/陳楸帆

沙嘴の花/陳楸帆

百鬼夜行街/夏笳

童童の夏/夏笳

龍馬夜行/夏笳

沈黙都市/馬伯庸

見えない惑星/郝景芳

折りたたみ北京/郝景芳

コールガール/糖匪

蛍火の墓/程婧波

円/劉慈欣

神様の介護係/劉慈欣

エッセイ/劉慈欣、陳楸帆、夏笳

コメント
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