老齢の母の生活支援をしながら、そろそろ自分の老後についても真面目に考えねばと思っていた矢先に、図書館の新着図書のコーナーで見つけ思わず手に取った。
健康寿命と言われる72歳(男性)から平均寿命の81歳までの約10年間に何を考えなくてはいけないかを5つの切り口で整理して解説する。この枠組みは2017年にカナダと米国の老年医学会により提唱され、今では老年医学専門医の基本指針とされているとのことだ。
5つのMとは、
Mobility からだ(身体機能)
Mind こころ(認知機能、精神状態)
Medications くすり(ポリファーマシー:患者が数多くの薬を飲んでいる状態)
Multicomplexity よぼう(多様な疾患)
Matters Most to Me いきがい (人生の優先順位)
を指す。
考え方のフレームワークとして分かりやすい上に、1つのMごとに1章を割いて解説される考え方は説得力あり、「最高の老後」を迎えるためのアドバイスも納得感高い。エビデンスを重視し、巷の俗説については相関関係や因果関係まで見ようとする姿勢は米国での医師経験がある筆者ならではだ。本の構成や記述も読みやすい。とってもお勧めできる健康本である。
(以下、いくつか勉強になった知見やアドバイスをメモ)
・寿命を規定するもののうち、25%程度が遺伝子情報に左右される。75%は自分次第。(p.25)
・30~50代の経済状況が老後の健康状態に大きく関わる(p.79)
・運動は量よりも継続が第一(強度すぎる運動は寿命に逆効果)。適度な運動と適切な栄養の両輪がかみ合うことが大切(pp.88⁻91)
・認知症の原因疾患は多様。直る認知症もある。(p124ー)
・科学的根拠ある認知症予防法はない。運動の予防効果はよくわかっていない。7時間以上の睡眠は効果ありそう。地中海式ダイエットも期待できそう。(pp. 142⁻160)
・医者は薬の足し算はできるが、引き算が苦手。薬はかかりつけ薬局を持ち、相談。(p.198/p.211)
・サプリメントはほぼ不要。副作用も存在。(→今の、小林製薬の紅麴問題を予見しているかのよう)(p.221)
・コレステロールの薬は将来の自分を守るための投資(p.230)
・予防接種は体の防災訓練のようなもの(p.288)
・病気は突然やってくる。最期を迎える人の約7割が自分で意思決定できない→家族らと医療方針について話しておく、「事前指示書」(事前に自分の医療方針を書面で明示する)を書くなどの準備も必要。(pp.321⁻330)
・医師が重要と思うことと患者が重要と思うことはずれがある。自分にとっての生きがいを大切にする。(p340)