その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

学び多し!: デ・キリコ展 @東京都美術館

2024-08-18 09:21:07 | 美術展(2012.8~)

洋画の展覧会は年初めのポーラ美術館以来で久しぶり。

デ・キリコの作品は多くの美術館に少数展示してあることが多い印象で、寂しげな広場や彫像、夕暮れ時を思わせる色彩など記憶に残る作品が多い。シュールレアリスム的な象徴性が印象に残る画家だ。ただ、画家本人のこととなると全くと言っていいほど知らなかった。

今回の「デ・キリコ展」は「デ・キリコ芸術の全体像に迫る大回顧展」と宣伝するだけのことはある大規模な展示で、若き日から老年に至るまで年代を追って様々な作品を鑑賞できた。

個人的には、3つの学び・気づきがあった。

1つは、基本的なことだが、デ・キリコはシュールレアリスム一派ではなく、その先駆者的な位置づけとして、「形而上絵画」を描いていたということを初めて知った。恥ずかしながら、私はデ・キリコがてっきりシュールレアリスム一派だと思い込んでいたのだが、むしろそれに先行していた先輩だったのである。

後年の再制作も含めて多くの形而上絵画が展示されているが、頻出するテーマである広場やそこにある建築物を描いた絵は、遠近法の崩れや影の付き方の不自然さで、不安定な気持ちに誘う。また、マヌカン(マネキン)の作品はその没個性性に込められたメッセージを勘ぐる。デ・キリコならではの世界観に浸れる。

2点目は、シュールレアリスム一派と袂を分かつきっかけとなったのが、1919年ごろから始まった伝統主義への回帰ということなのだが、それらの作品もなかなか見応えあった。《闘牛士の衣装をまとった自画像》の自信に満ち溢れた表情は迫力満点。全盛期のレンブラントの自画像のような、プライドや自己顕示を感じる。静物画らも、その精緻でありながらダイナミックな描っきぷりは画家の力量を感じるに十分だった。

3点目は晩年の新形而上絵画とカテゴライズされている作品群を知った。私自身1910年代の「旧」形而上絵画の作品と後年の「新」形而上絵画の区別を意識して鑑賞したことは無かったので、その変化と違いが興味深い。「新」は色合いが薄く明るくなり、絵の重量感が失われ軽くなった感じがする。イラストに近いものがあって、個人的には「旧」作品の方が好みだった。

これら以外にも画家の工芸や舞台芸術の作品も展示されていて、画家の様々な芸術活動に触れられる。

人によって見どころは異なると思うが、訪問価値の高い特別展であった。なお、会場内寒いぐらいエアコンが効いているので、羽織るものを持参されたほうが良いかと思う。

2024年8月9日訪問

 

(日暮れもだいぶ早くなってきました)

コメント
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