千葉県佐倉市に国立歴史民俗博物館という博物館があることをご存知ですか(恥ずかしながら、私は初めて知りました)?本書は2015年に当地で開催された企画展「大ニセモノ博覧会」を書籍向きに書き下ろしたものです。
「フェイク(偽文書、贋作、偽造、偽物)」「イミテーション(模倣、擬態、模造品)」、「コピー(複製、模作、模刻)」、「レプリカ(複合品、写し、模型)」。いずれもニセモノを指す言葉ですが、それぞれ違いがあることを初めて知りました。詳しい解説は本書を読んでいただくとして、ニセモノにはニセモノの存在理由があるのです。
地方の素封家が自宅で開催する宴会で、家の威信を示すために飾られた雪舟ら有名日本画家の掛け軸、屏風絵の贋作、由緒を求めて近世の人が偽造した信玄や家康の偽文書など、偽物が求められる歴史的背景や真贋の区別となるポイントが端的に解説されていて実に興味深いです。
個人的に特に興味深かったのは、この博物館が企画展のために制作した人魚のミイラの制作プロセス。実在しない生き物のミイラだから、当然ニセモノなわけだが、制作のためには本物のサルや鮭を利用して、毛をそり、皮をはぎ丹念に加工されます。これ自体が立派な作品であって、一体ニセモノとは何なのか分からなくなってきます。
簡単に読めますが、歴史学、民俗学の面白さを垣間見る内容になっており、この手のトッピクが好きな人にはお勧めです。国立歴史民俗博物館に行きたくなることを請け合い。
目次
第1章 ニセモノとおもてなし(宴会風景の再現
おもてなしで活躍するニセモノ ほか)
第2章 なぜ偽文書は作られたのか?(偽文書の需要と供給
文書を偽造しても欲した、“由緒” ほか)
第3章 パクリかパロディか(コピー商品は時代を超えて
ものつくりを支えた中世の生産革命 ほか)
第4章 ニセモノを創造する(創造されたニセモノ人魚
平田篤胤、人魚を食す ほか)
第5章 ニセモノから学ぶ(博物館のレプリカから見える世界
小判製作工程の復元 ほか)