私としては2016年以来7年ぶりの青年団公演の観劇です。作品そのものは1989年初演ということなので30年以上前のものの再演。
1909年のソウルでの日本人商家のダイニングルームが舞台。「自由主義的な」篠崎家の面々、使用人、書生、訪問客の会話を通じて、植民地における支配する側の一般市民の差別意識が炙り出されます。
今となっては、この舞台で描かれるような、無意識なんだけど露骨な人種差別というのは少なくなっている気がします。むしろ、ヘイトスピーチのように正々堂々と表に出た形で攻撃的になっていたり、差別も姿や形を変えて複雑化し分かりにくくなるなど、二極化していると感じます。なので、「(初演の)1989年だと、こうした表現になるのかな」と初演時からの時間を感じるところがありました。(元森首相の性差別発言が家庭内に普通に飛び交っている印象で、今なら無意識/意識関係なく即OUTだよねという感じです)
一方で、本作品を通じて、自分が持つ認識・認知の世界観の限界、その外の世界からみた自分の差別って何だろうと考えさせられます。
小さな小劇場の最前列で観れたので、役者さんの息遣いまでわかる距離です。再演を重ねている舞台だからでしょうか。出演者は再演ごとに変わっているようですが、演技や動きが洗練されていたのが印象的でした。もう10年近く前になりますが、とあるワークショップでサポート頂いた石松さん(高井書生役)と立蔵さん(手品師の助手役)が出演されていて、はつらつとした演技をされていたのを拝見できたのも嬉しかったです。
平田オリザさんの演劇は、現代口語演劇として普通の日常を淡々と描くものをいくつか見てきました。私にとってはいつも不思議な気分になる舞台です。日常を描いているのだが、日常であるが故にドラマ性は高くなく、「演劇としては非日常」という落ち着かなさなとでも言うのでしょうか。今回も、その不思議さをたっぷり味わいました。
青年団第94回公演
『ソウル市民』
作・演出:平田オリザ
2023年4月7日(金)- 4月27日(木)
会場:こまばアゴラ劇場
出演
永井秀樹 天明留理子 木崎友紀子 太田 宏 田原礼子 立蔵葉子 森内美由紀
木引優子 石松太一 森岡 望 尾﨑宇内 新田佑梨 中藤 奨 藤瀬のりこ 吉田 庸
名古屋 愛 南風盛もえ 伊藤 拓
スタッフ
舞台美術:杉山 至
舞台美術アシスタント:濱崎賢二
舞台監督:中西隆雄 三津田なつみ
照明:三嶋聖子
衣裳:正金 彩
衣裳製作:中原明子
衣裳アシスタント:陳 彦君
宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁
宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:太田久美子 込江 芳
協力:(株)アレス