その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

やばい〈物語・沖縄現代史〉:柳広司『南風に乗る』(小学館、2023)

2023-04-14 07:41:44 | 

山之口獏(詩人)、瀬長亀次郎(政治家)、中野好夫(英文学者)という3人の沖縄縁の人(瀬長と山之口は沖縄出身)を通じて、沖縄の戦後史を描いた物語。

本土復帰、基地問題、自立に向けた沖縄の闘いが、東西冷戦・日米関係を軸にした国際政治、経済優先の国内政治の文脈の中で、3人の生き様とともに熱い筆致で描かれる。

小説ではあるが、題材が現代史なのでノンフィクション部分、歴史テキスト的な部分も多い。なので、登場人物への共感や感情移入だけでなく、読者の歴史的思考や解釈が求められる。読みやすくページは進むが、歴史としてのファクトと物語としてのフィクションの区分け、また、登場人物への感情移入や作者の支配層への強い批判的立場に振り回されない歴史の見立てや判断が必要で、読み方はなかなか難しい本であるとの印象だった。

本書では、主要人物たちの沖縄の当事者としての行動や向き合い方が描かれる。私のような沖縄アウトサイダーにとっては、机上のお勉強や知識でないリアルな沖縄現代史を感じ取ることができたのが一番の収穫だった。

歴史教科書レベルで、沖縄は1972年の返還まで講和条約の「犠牲」としてアメリカの「占領地」であったことや様々な基地問題が発生していたことは知識として知っている。だが、それが沖縄の人々にとって、日々の生活の中ではどういう意味なのか。どこまで肌感覚として理解できているのか。軍用機や毒ガス等の配備が住民に与える脅威と危険、警察権・裁判権を市民が持たないことの影響、参政権の重要性、本土への渡航でさえ制限を受けるなどなど、本書で追体験できる内容は広いし、重い。現在の問題でもある基地問題等についても、より思考や想像の幅が広がった。

あえてアウトサイダーとして言うと、本書が提起する問題の難しさは、人により、何に価値を置いて、誰の幸福のために考えたり、行動するのかのポジショニングが異なること。それにより良い・悪い、正しい・正しくないが変わってくることだろう。

国内外の政治や国の安全保障の現実と、現地市民の人権や幸福の追求のバランスはどうあるべきなのか。相似形の問題は我々の周囲にも色々転がっているが、沖縄はその矛盾が一番露骨に顕在化し、国益という名のもとに地域が犠牲にされてきたことは間違いない。

そんな中で、私自身は本書を通じて、何を考え、どう行動できるのか、すべきなのか。一人ひとりが考えるしかないのだが、これはなかなか難しい。AIや、ChatGPTが答えを出すべき課題、出せる課題ではないのは間違いない。

コメント (2)
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