Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

チェネレントラ

2009年06月16日 | 音楽
 新国立劇場で上演中のロッシーニのオペラ「チェネレントラ」をみた。

 演出・美術・衣装はジャン=ピエール・ポネル(再演出はグリシャ・アサガロフ)。
 第1幕。コーヒー茶碗をもって部屋に入ってきたチェネレントラ(つまりシンデレラ)が、そこにだれかいるのをみて(これは従者に変装した王子ラミーロ)、驚いて茶碗を落としてしまう(これは台本どおり)。すぐにふたりは一目惚れ。チェネレントラがぎこちなく自己紹介をしていると、けたたましくチェネレントラを呼ぶ義理の姉の声。あわてて駆けつけようとするチェネレントラは、また茶碗を落としてしまう――これは台本にはない演出で、私は笑ってしまった。チェネレントラのあわてぶりと、もしかするとラミーロとの出会いによる動揺もあったのでは――そう感じさせる細やかな演出だ。
 その直後の王子の家臣たちの来訪は、全員一列になって、お揃いの赤い上着をつけ、手には赤いバラをもって、コミカルに行進する。この上演でいちばん絵になる場面だが、私はそれをみながら、譜面にかかれたオタマジャクシが視覚化されているように感じた。

 第2幕。王子ラミーロがチェネレントラをみつける場面で、巻き舌のrの音が重なり合う滑稽な六重唱が繰り広げられるが、そこでは扇形に広がった歌手たちが、六重唱の進行とともに、手と手をつないで一塊になる。これは、ドラマとしての意味よりも、王子とチェネレントラが見詰め合っているのをみて驚いた人びとが、「これはどうしたことだ?頭がこんがらがるばかりだ」と口々にいう言葉を視覚化したもの。すぐれた場面づくりの一例だ。
 驚きから我に返った義理の姉のクロリンダが、まず、チェネレントラに悪態をつき、次に義理の父のマニフィコが悪態をつき、さらにもう一人の義理の姉のティーズベが勢い込んで悪態をつこうとする瞬間、王子ラミーロがそれを制する。空振りに終わったティーズベが可笑しくて、私はここでも笑ってしまった。悪態の音楽が割り振られていないティーズベの扱い方として、これはうまいと思った。

 以上、実際の舞台をご覧になっていないかたのために、すこし詳しく描写したが、ポネルの演出(アサガロフの再演出)はこのようなものだった。一言でいえば、舞台の動きが音楽と一致した演出、さらに加えるなら、個々の登場人物の状況を深く理解した演出。

 チェネレントラ役のヴェッセリーナ・カサロヴァは、フィナーレの独唱のスケールの大きさに圧倒された。ラミーロ役のアントニーノ・シラグーザは、高音のきまり方にしびれた(しかもアンコールつき!)。その他の3人の外人歌手も高水準。クロリンダ役の幸田浩子さんとティーズベ役の清水華澄(かすみ)さんも健闘。
 指揮のデイヴィッド・サイラスは、地味ながら、テンポがよかった。東京フィルにも不満はなし。
(2009.06.14.新国立劇場)
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