シュツットガルト歌劇場は、クラウス・ツェーエライン前総監督の時代に、急進的なオペラ上演で評判になった。私はそのころ何度か足を運んだが、その後体制が変わって、しばらくご無沙汰していた。今回は久しぶりだ。演目はドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」で、演出はこの歌劇場の看板コンビであるヨッシ・ヴィーラーとセルジョ・モラビト。これはもともと2003年にハノーファー州立歌劇場のために制作されたもので、シュツットガルト初演は2007年とのこと。
台本では最初は深い森の中の泉のほとりの場面だが、幕が開くとそこは真っ白い室内の廊下。奥の方から薄汚れた不良少女が忍び込んでくる。おどおどした様子で机の上のペットボトルを飲んだり、引き出しの中を物色したりしている。それをゴローが見つける。顔を見ると美しいので、キスはおろか、犯そうとさえする。これが物語のはじまり。
真っ白い室内は高級サナトリウムらしい。ゴローとペレアス(二人は異母兄弟)の父が重病なので、これはもっともな設定。この家族はそこに住むお金持ちというわけだ。
ゴローの妻におさまったメリザンドは赤いスーツ姿。そこに海岸から戻ったペレアスが現れる。能天気なお坊ちゃん風だ。二人はお互いに惹かれあう。
ペレアスの母のジュヌヴィエーヴと祖父のアルケル(つまりジュヌヴィエーヴの義父)は、ただならぬ関係にあるらしい。二人はその親密さを隠さない。ゴローもペレアスもそれを平気で見ている。どうやらこの家族では公認のことらしい。二人はだんだん親密になっていくペレアスとメリザンドをみて微笑する。
ゴローの息子のイニョルドは腕白坊主。終始舞台に出ていて、おもちゃをひっくり返したり、ドアにペンキで落書きしたり、壁を蹴っ飛ばしたりして騒々しい。
こういった設定でオペラは展開する。その流れの詳細を描写しても煩雑になるだろうから、これ以上は控えるが、ともかくアッと驚いたり、なるほどと納得したりすることが多く、飽きることがなかった。
この舞台から浮かび上がってくることは、このオペラが時も場所も定かではない幻想的な物語ではなく、現代のどこにでもありそうな話だということ。考えてみると、ヴィーラーとモラビトの演出はいつもそうだった。オペラを現代にひきつけて視覚化し、わかりやすく提示すること。それがこの二人の基本路線だった。
歌手はおおむね平均点。日本人の私としては、イニョルド役の角田祐子さんに目を見張った。小柄な体で元気一杯。壁の蹴りにも迫力があった。
指揮はペーター・シュロットナー。ここぞというところではオーケストラを朗々と鳴らしていた。こういうドビュッシーはよい。音を抑えた演奏はこの音楽にふさわしくない。
(2010.2.9.シュツットガルト歌劇場)
台本では最初は深い森の中の泉のほとりの場面だが、幕が開くとそこは真っ白い室内の廊下。奥の方から薄汚れた不良少女が忍び込んでくる。おどおどした様子で机の上のペットボトルを飲んだり、引き出しの中を物色したりしている。それをゴローが見つける。顔を見ると美しいので、キスはおろか、犯そうとさえする。これが物語のはじまり。
真っ白い室内は高級サナトリウムらしい。ゴローとペレアス(二人は異母兄弟)の父が重病なので、これはもっともな設定。この家族はそこに住むお金持ちというわけだ。
ゴローの妻におさまったメリザンドは赤いスーツ姿。そこに海岸から戻ったペレアスが現れる。能天気なお坊ちゃん風だ。二人はお互いに惹かれあう。
ペレアスの母のジュヌヴィエーヴと祖父のアルケル(つまりジュヌヴィエーヴの義父)は、ただならぬ関係にあるらしい。二人はその親密さを隠さない。ゴローもペレアスもそれを平気で見ている。どうやらこの家族では公認のことらしい。二人はだんだん親密になっていくペレアスとメリザンドをみて微笑する。
ゴローの息子のイニョルドは腕白坊主。終始舞台に出ていて、おもちゃをひっくり返したり、ドアにペンキで落書きしたり、壁を蹴っ飛ばしたりして騒々しい。
こういった設定でオペラは展開する。その流れの詳細を描写しても煩雑になるだろうから、これ以上は控えるが、ともかくアッと驚いたり、なるほどと納得したりすることが多く、飽きることがなかった。
この舞台から浮かび上がってくることは、このオペラが時も場所も定かではない幻想的な物語ではなく、現代のどこにでもありそうな話だということ。考えてみると、ヴィーラーとモラビトの演出はいつもそうだった。オペラを現代にひきつけて視覚化し、わかりやすく提示すること。それがこの二人の基本路線だった。
歌手はおおむね平均点。日本人の私としては、イニョルド役の角田祐子さんに目を見張った。小柄な体で元気一杯。壁の蹴りにも迫力があった。
指揮はペーター・シュロットナー。ここぞというところではオーケストラを朗々と鳴らしていた。こういうドビュッシーはよい。音を抑えた演奏はこの音楽にふさわしくない。
(2010.2.9.シュツットガルト歌劇場)