Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展

2011年08月15日 | 美術
 国立新美術館の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」。印象派の誕生前夜から始まって、印象派のメインロードを通り抜け、ポスト印象派に至る構成。まさに王道というか、ど真ん中直球という感じの企画展だ。

 こういう内容だと、教科書的に一つひとつの作品を見るよりも、自分の好みの画家を重点的に見たくなる。そういう意味では、わたしの好きな画家はマネとセザンヌ。

 マネは「鉄道」が来ていた。本展のチラシ↑にも使われている作品。過去にも来たことがあり、わたしもそのとき見ているが、あまり感動した記憶がない。だが、今回は感動した。わたしなりの楽しみ方が、少しはできるようになったのかも。

 この作品の解釈は、以前どこかで読んだ記憶がある。でも今回この作品を楽しむに当たって、そんなことは少しも必要ではなかった。単純に――画面左手にはわたしたちの視界を遮って女性が座り、画面中央には少女が立って鉄柵の向こうを眺めていて(それはわたしたちの視線を誘導する)、画面右手には鉄道駅の空間が広がっている――このように縦に三分割された構成が面白かった。

 セザンヌは「赤いチョッキの少年」が来ていた。セザンヌがイタリア人の少年モデルを描いた何点かの一つ。これは、具象が抽象に傾くときの緊張感という意味で、セザンヌらしさがフルに発揮された作品だ。青、緑、茶、灰というセザンヌ好みの色にくわえて、チョッキの赤が珍しい。この時期セザンヌがこのテーマに取り組んだのは、赤をどのように取り込むかの実験だったのか。

 また本展は、油彩だけではなく、素描、水彩、版画のまとまったコレクションが来ていることも特徴の一つだ。ドガやロートレックなら見る機会も多いが、マネの版画(カラー・リトグラフ)、ルノワールのデッサン(赤と白のチョーク)、ゴッホの版画(エッチング)などは珍しい。

 ゴッホの版画は、ゴッホ最後の年に、ゴッホの診療をし、友人でもあったガシェ医師を描いたもの。油彩が何点かあるが、版画も作っていたとは……。油彩と同様に多少デフォルメしていて、どことなくユーモアが漂っている。どんなにゴッホはこの人物を信頼していたことか、それがほのぼのと感じられる作品だ。

 お盆休みの金曜日、しかも仕事の帰りの夜間だったので、来場者は比較的少なく、ゆったりとこれらの作品を見ることができたのは幸いだった。
(2011.8.12.国立新美術館)
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