Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

一枚のハガキ

2011年08月16日 | 映画
 今年の8月15日は、正午には戦没者のために黙とうを捧げ、夜は映画「一枚のハガキ」を観に行こうと決めていた。

 今年99歳の映画監督、新藤兼人さんの最新作「一枚のハガキ」。ストーリーは紹介するまでもないだろう。監督ご自身の体験をもとにした物語。もちろん細部やストーリー展開はフィクションだろうが、こういう話は当時どこにでもあったと思われる。わたしたち庶民が戦争に翻弄された悲惨な時代。それはわずか66年前のことだ。

 戦争で夫を失い、舅姑の懇願で亡夫の弟と結婚させられた友子(大竹しのぶ)。こういう話は当時よくあったと聞く。映画ではその弟も戦死する。

 一方、海軍2等兵だった啓太(豊川悦司)は、上官がひいたクジの結果、戦地に行かずに終戦を迎える。実家に戻ると、だれもいない。妻は啓太が死んだものと思い、父とできていた。そこに啓太から帰郷の連絡が入ったので、驚いた2人は姿を消したのだ。

 これだって、当時はあったろう。今の倫理では考えにくいが、当時はとにかく一人では生きていけないので、仕方なかったかもしれない。正式な夫婦になるかどうかはともかく、内縁の関係ではあり得ることだ。

 啓太は、戦友だった友子の最初の夫からハガキを託されていた。そこで、戦後のある日、友子を訪れる。2人が惹かれ合うのは定石どおりだが、簡単にハッピーエンドに持っていかないのがさすがだ。友子の胸の底には最初の夫への想いが消えていなかった。最後の最後になって半狂乱になる友子。これをくぐり抜けて初めて2人はほんとうに理解し合う。

 大竹しのぶさんの演技はすばらしい。わたしが気に入ったのは、何気ないシーンだが、回想の場面で最初の夫の出征のときに、村はずれまで見送るシーン。夫に「もうここまででいい」といわれて、涙を浮かべ、唇をかみしめ、口惜しそうに夫を見送るその表情。

 新藤監督の作品では、以前「午後の遺言状」に感動した記憶が生々しい。調べてみたら、あれは1995年の作品だった。それにくらべると、本作はやや粘りがなくなっているが、もちろんこれは仕方がないと思わなくてはならない。

 去る7月の試写会には天皇陛下も出席された。反戦映画なので意外な感じもするが、天皇陛下が出席され、新藤監督と親しく言葉を交わされたそうだ。わたしたちはよい時代に生きている。願わくばこの時代がずっと続きますように。
(2011.8.15.テアトル新宿)
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