Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

祝の島

2011年08月05日 | 映画
 ある偶然がわたしに届けてくれた一枚のチラシ。届いたときには、それほど気にも留めなかったが、ふと思い出して、出かけてみた。ドキュメンタリー映画「祝の島」(ほうりのしま)の上映会。

 瀬戸内海に祝島(いわいしま)という小さな島がある。人口500人程度。高齢化が進む過疎の島だ。島民は漁業や農業でささやかな暮らしをしている。この島が原発問題で揺れている。しかも28年間も。中国電力が4キロ先の対岸に原発をつくる計画だからだ。海をはさんだ4キロ先は目の前だ。島民のなかには賛成派もいるが、約9割が反対している。

 本作は反対派の島民の日常生活を追ったもの。原発の是非という難しい議論は出てこない。島のおじいさん、おばあさんが、漁をしたり、海藻をとったり、田んぼの世話をしたりする、昔ながらの生活を描いている。

 だからこれは、ドキュメンタリーというよりも、詩というほうが相応しい。映像による、懐かしく、美しい、四季折々の詩だ。

 3.11の前なら、これで終わっただろう。けれども、福島第一原発の事故が起こった今では、それだけでは済まされない。原発事故は、このようなおじいさん、おばあさんの生活を奪うからだ。

 本作は2010年4月に完成された。その後、各地で上映会が続いているが、おそらく3.11の前と後とでは、本作のリアリティはちがっているだろう。

 少し回り道をして恐縮だが、先日、某県の前知事と会食する機会があった。そのかたは中央省庁のエリート官僚だったが、知事に転身して、長期にわたって職務をまっとうされた。わたしは若いころ、そのかたの薫陶をうける機会があり、温かみのあるリーダーシップを学んだ。そのときの会食は、少人数で、肩の張らない、くつろいだ場になり、話題も多岐にわたった。けれども、原発問題についてだけは、厚い壁を感じた。推進する立場の根拠となるエネルギー問題、経済問題、財政問題、それぞれもっともだったが……。

 福島の方々、そして祝島のおじいさん、おばあさんの生活も、大事なのだ。

 本年6月に大阪府の橋下知事が、多くの原発が福井県に立地している現状に触れて、「もし原発が必要なら、大阪につくるという話にして、府民に問うしかない」と発言した。これは東京でも同じことだ。案外、原発問題の核心は、このへんにありそうな気がする。
(2011.8.4.目黒区民センター)
コメント
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