Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

トロイアの人々

2013年01月29日 | 音楽
 METライブビューイングでベルリオーズのオペラ「トロイアの人々」を観た。いつかは舞台を観てみたいオペラの一つだったので、念願が叶った――もっともDVDは出ているのかもしれないが――。DVDを観る習慣がないので、今まではCDを聴くだけだった。

 なるほど、これはMETのような大劇場でないと、なかなか上演できない代物だ、と思った。まず合唱団の数がものすごい(合唱指揮者へのインタビューでは110人といっていた。これらの人々がギリシャ人になったり、トロイ人になったり、カルタゴ人になったりする。「今自分はなんの役かを把握するだけでも大変だ」そうだ)。さらに主な独唱者が9人。ダンサーが数名。これらの人々が舞台上で激突する。オーケストラは3管編成が基本だが、舞台裏のバンダが加わる。

 これはMETの総力戦の観を呈していた。METでなければできない上演。METの威信をかけた上演。もちろん他の劇場でも上演できるが、このような上演は無理だろうという類の上演だった。

 これでいいのだと思う。なにしろベルリオーズの作品だ。ベルリオーズが狙ったとおりの上演――あるいは夢見た上演――だったかもしれない。端的にいって、ベルリオーズがこれを観たら狂喜するのではないか、と思った。

 フランチェスカ・ザンベッロの演出は、まっとうすぎて、退屈したが、舞台上でこれだけの大人数をさばいたのだから、それだけでも合格だろう。

 ファビオ・ルイージの指揮は、どこかに飛んで行ってしまいそうな奔放な音楽と、甘く陶酔的な音楽とを描き分け、巨大なこの作品を、ともかくまとまりのある演奏にまとめ上げたのだから、たいしたものだ。

 歌手では大発見があった。アエネアス役の歌手が降りてしまい、急なピンチヒッターに立ったブライアン・イーメルがそれだ。張りのある、輝かしい声の持ち主。インタビューによると、急に呼び出されて、昨年のクリスマス・イヴに初稽古、クリスマスは休んで、翌日が本番だったそうだ。シンデレラ・ボーイの登場に立ち会った実感がある。

 カサンドラ役のデボラ・ヴォイト、ディドー役のスーザン・グラハムは、ともに――タイプはちがうが――貫録十分、もう大歌手だ。なにもいうことなし。変わったところでは、バイロイトをはじめドイツの主要な劇場の常連クワンチュル・ユンが、ナルバル役で出ていた。この人のフランス・オペラは初めて聴いた。
(2013.1.28.東劇)
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