Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

オロスコ・エストラーダ/N響

2024年11月17日 | 音楽
 アンドレス・オロスコ・エストラーダがN響に初登場した。オロスコ・エストラーダはすでにウィーン・フィルの日本公演を振ったりしている。聴いた方も多いだろう。わたしは初めて。どんな指揮者かと興味津々だ。

 1曲目はワーグナーの「タンホイザー」序曲。オロスコ・エストラーダは2025年のシーズンからケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団とケルン歌劇場の音楽監督に就任する。ワーグナーを振る機会も多くなるだろう。さて、どんなワーグナーかと、わたしはこの曲に一番注目した。結果は案外つまらなかった。最後の金管の鳴り方は雄大だったが、そこに至るまでのドラマに欠けた。

 2曲目はワインベルクのトランペット協奏曲。トランペット独奏はラインホルト・フリードリヒ。初めて聴くが、大変な名手だ。ルツェルン祝祭管弦楽団の創設時に、アバドに乞われて首席奏者に就任したそうだ。斯界の名だたる存在だろう。

 細かいパッセージはもちろん、糸のように細い音から豊かな太い音まで、どの音も安定感が群を抜く。名手とはこのような人をいうのだろう。オロスコ・エストラーダの指揮するN響のバックも、引き締まった音で、敏捷に動き、かつ集中力があった。トランペットとオーケストラが相まって、比較的珍しいこの曲を見事に披露した。フリードリヒはアンコールに「さくら、さくら」を吹いた。日本的に平板で横に流れる演奏ではなく、大きな抑揚で縦に歌う演奏だった。

 ワインベルクはショスタコーヴィチと同時代人だ。2人は友人だった。ワインベルクがショスタコーヴィチから受けた影響も大きいが、逆にワインベルクがショスタコーヴィチに与えた影響も大きかった。私事だが、2015年3月にフランクフルト歌劇場でワインベルクのオペラ「旅行者」を観た。「旅行者」はアウシュヴィッツで何が起きたかを描くオペラだ。わたしが観たのはドイツ初演から数日後の公演だった。衝撃的なこのオペラをドイツ人たちは神妙に観ていた。

 3曲目はショスタコーヴィチの交響曲第5番。第1楽章冒頭のテーマが激しく提示されるとき、コントラバスがずっしりと豊かに響いた。音楽が静まり、第1ヴァイオリンが副次的なテーマを奏するとき、音は一転してほとんど聴き取れないくらいに弱くなった。そのコントラストの強さがこの演奏の特徴だ。第3楽章の集中力と緊張感はオロスコ・エストラーダの優秀さの表れだ。第4楽章冒頭のテーマは、昔のような勝利の凱旋ではなく、また「ショスタコーヴィチの証言」直後の“強いられた歓喜”でもなく、フラットに(ただし輝かしい音で)演奏された。
(2024.11.16.NHKホール)

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