Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ネーメ・ヤルヴィ/N響

2014年04月22日 | 音楽
 ネーメ・ヤルヴィ/N響の北欧プログラム。1曲目はグリーグの「ペール・ギュント」組曲第1番。あまりにもベタな選曲なので、正直いって、なぜ、と思わないでもなかった。でも、これが名演だった。緊張感のある音は、N響としてもトップクラスだと思った。ほんとうの名指揮者のもとで、しかも楽員が共感したときでないと出ない音。完璧にピッチが合って、けっして崩れない音だった。

 この曲をプログラムに組んだ理由がわかる気がした。たんなる名曲プログラムではなく、音楽をもっと高い次元で考えていることが感じられた。

 2曲目はスヴェンセンの交響曲第2番。グリーグと同時代人で、親交のあったスヴェンセンの代表作だ。その演奏に期待していたが、結果は?だった。グリーグの緊張感のある音にくらべて、ピッチもリズムも緩いのだ。グリーグの演奏で驚いた直後だったので、楽しめなかった。そうなると、この曲の凡庸さというか――凡庸といってはいけないのだが、要するに、性格はいいのだが、陰の部分に欠ける人物のような――、一種の退屈さが気になった。

 もっとも、スヴェンセンの実人生は、この曲から想像されるものとは別物だった。スヴェンセンとその最初の妻との関係は、泥沼だったらしい。スヴェンセンの交響曲は今では2曲しか残されていないが、じつは第3番もあった。だが、夫婦げんかの末に、妻がその草稿をストーヴに投げ込んでしまった。このエピソードは広く知れ渡り、イプセンが「ヘッダ・ガーブレル」で借用した(人妻ヘッダ・ガーブレルが恋人レーヴボルグの研究論文を燃やしてしまう)。

 それはともかく、1曲目と2曲目とのあいだには、グリーグとスヴェンセンの親交以外にも、‘イプセンつながり’が意識されているのかもしれないと想像した。

 3曲目はシベリウスの交響曲第2番。グリーグのような演奏になるのか、スヴェンセンのような演奏になるのか、一抹の不安があった。結果は大正解。グリーグのような緊張感のある音で、しかもオーケストラが豊かに鳴る名演となった。政治情勢の文脈を離れて、純粋に音楽的な演奏だった。

 この曲は、わたしには、渡邉暁雄の演奏がこびりついていて、今まで他のどんな演奏を聴いても、しっくりこなかった。これはもう仕方がないと思っていた。でも、今回の演奏には感動した。渡邉暁雄以外では初めての経験だ。長年の憑き物が落ちる時期が来たように感じた。
(2014.4.19.NHKホール)
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