Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カンブルラン/読響

2016年10月20日 | 音楽
 カンブルランが振った今月の読響の定期は、じつにカンブルランらしいプログラムだった。

 1曲目はシューベルトの「6つのドイツ舞曲D820」(ウェーベルン編曲)。今年4月にはロト指揮都響もこれを演奏した。カンブルランとかロトとか、先鋭的な感覚を持つ指揮者の興味を惹く曲のようだ。カンブルランの演奏は、ロトよりもアクセントが強く、カラフルだった。

 2曲目はコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は五嶋みどり。極端に抑えた音でゆっくりと、フレーズを噛みしめるように始まった導入部分。今までこういう演奏は聴いたことがないと思った。主部に入ってからもそのペースは変わらなかった。どこかに人生の苦さを湛えたような演奏。

 今まで聴いた演奏は、なんと安易な演奏だったことかと思った。コルンゴルト自身の映画音楽を素材にした曲ということで、甘く開放的に演奏されてきた。でも、この曲は一種のペシミズムに裏打ちされた曲だったようだ。大戦中のハリウッドでの生活を振り返って、一抹の苦さとともに、自分の人生を受け入れるコルンゴルトの想いが込められた曲だった。

 休憩をはさんで3曲目はヨハネス・マリア・シュタウト(1974‐)のヴァイオリン協奏曲「オスカー」(2014)。シュタウトはオーストリア生まれの作曲家。本作は五嶋みどりが初演し、五嶋みどりに献呈された。まさに同時代の音楽。

 オーケストラは弦5部と多数の打楽器という編成。演奏時間は約18分。全体は切れ目なく続くが、プログラムノーツによると5部からなる。テンポも音圧も中間の第3部に向かって高まり、そのピークでは音が飛び散るような錯覚を覚えた。そこを超えると、急速に減衰し、宇宙の彼方に消えるような神秘的な部分となり、冒頭の音型に戻って終結した。

 独奏ヴァイオリンもオーケストラも、極度の集中力を持った演奏。カンブルランの指揮は、水を得た魚のように、冴えきっていた。読響も見事に応えた。

 4曲目はデュティユーの交響曲第2番「ル・ドゥーブル」。デュティユーは今年生誕100年なので、カンブルラン/読響はその作品を継続的に演奏している。今回はそのメインのような位置付けになる。演奏はひじょうに説得力があった。

 わたしにはプログラミングも演奏も(今のところ)今年一番の演奏会になった。
(2016.10.19.サントリーホール)
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