Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルチア

2017年03月15日 | 音楽
 新国立劇場の「ルチア」新制作。新国立劇場のベルカント・オペラという点がなんとも新鮮だ。「ルチア」は2002年に上演して以来の上演だそうだ。その後、「愛の妙薬」は上演しているが、それ以外のドニゼッティのオペラはあったかどうか。そういえば、ベッリーニのオペラは今まで何か上演したことがあったろうか。

 今回の「ルチア」だが、タイトルロールのオルガ・ペレチャッコ=マリオッティは滑らかなベルカントを聴かせ、舞台姿も美しく、また「狂乱の場」での演技も水際立っていた。わたしはこの歌手が2007年のペーザロでロッシーニの「オテロ」に出てデズデモーナを歌ったときに聴いているので、今では堂々としたプリマドンナになったその成長ぶりが嬉しかった。

 (余談になるが、ぺーザロのその公演では、ロドリーゴ役をファン・ディエゴ・フローレスが歌って喝さいを浴びていた。ヴェルディの同名作とは違って、ロッシーニの「オテロ」ではロドリーゴ役の比重が重い。)

 エドガルド役のイスマエル・ジョルディは軽めの声がよくきまり、抑揚のある歌唱を聴かせた。エンリーコ役のアルトゥール・ルチンスキーはたっぷり響く声を持ち、幕開き早々のアリアで聴衆を圧倒した。以上の3名はいずれも若く、今が旬の有望株を聴く楽しみを味わった。

 指揮のジャンパオロ・ビザンティは神経の通った音をオーケストラ(東京フィル)から引き出し、思わぬ発見だった。プロフィールによると、2016年11月からイタリア・バーリのペトルッツェリ劇場の音楽監督を務めているそうだ。わたしは名前も知らない劇場なので、イタリア・オペラ界の層の厚さを感じた。

 演出はジャン=ルイ・グリンダ。基本的には保守的な演出だが、2016年に新制作されたマスネの「ウェルテル」のような何もしない演出ではなく、独自の解釈を織り込んだものだった。とくに「狂乱の場」では、第1幕のルチアのアリアでの泉を再び出現させ、第1幕でルチアが歌った悲恋の伝説と、狂気に陥ったルチアの今の姿とを重ね合わせて、ドラマの対応関係を感じさせた。

 その「狂乱の場」では、通常はフルートで演奏されるオブリガートのパートをグラスハーモニカが演奏した。わたしは(実演はもとよりCDでも)そこをグラスハーモニカで聴くのは初めてだった。繊細な音色は「狂乱の場」の前後の場面とは隔絶した異次元の世界を作り出した。
(2017.3.14.新国立劇場)
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