Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アルチンボルド展

2017年08月10日 | 美術
 アルチンボルド展が開催されることを知ったのは、昨年の秋か冬頃だった。ずいぶん渋い画家を取り上げるものだなと思った。アルチンボルドの名前は知っていたが、チラシ↑で使われているような奇妙な人物画のイメージがあるだけで、他にどんな絵を描いているのか、またどんな生涯を送ったのかは、まったく知らなかった。

 さて、展覧会が始まって、足を運んでみると、大勢の子どもたちで賑わっているので驚いた。夏休みということもあるだろうが、アルチンボルドが子どもたちに受け入れられていることが予想外だった。でも、たしかに、変な絵、不思議な絵、楽しい絵といった切り口があるので、それに子どもたちが反応するのだろうと気が付いた。本展を夏休み期間中に開催した主催者側の慧眼だ。

 チラシ↑の絵は「春」という題名。無数の花(本展のHPによると80種類もあるそうだ)で構成した春の擬人像。これを美しいと思うか、気味が悪いと思うかは微妙だが、ともかく変わった絵であることは間違いない。

 わたしは花よりもむしろ、衣服を構成している葉に惹かれた。陰影が濃やかで、みずみずしく、迫真性のある描き方だ。話が先走るようで恐縮だが、アルチンボルド(1526‐1593)は晩年、故郷のミラノに帰ったが、その頃若きカラヴァッジョ(1571‐1610)がアルチンボルドの絵を見たことは確実視されているようだ。本作での葉の描き方には、若き日のカラヴァッジョにつながるものが感じられた。

 本作は「夏」、「秋」、「冬」とともに連作‘四季’を成す。「夏」は果物と野菜で、「秋」も果物(とくに葡萄)と野菜で、「冬」は枯れ木で構成されている。

 一方、衣服は、「夏」は麦、「秋」はワイン樽、「冬」は蓑で構成されている。それらの描き方は「春」での葉と同様に迫真的だ。

 アルチンボルドはミラノ生まれ。1562年にハプスブルク家の宮廷画家に登用され、その翌年に‘四季’の連作を描いた。アルチンボルドとしては宮廷内での地歩を固めるための渾身の力作だったようだ。たしかに一風変わった絵ではあるが、宮廷人にはそれを博物学的な興味を持って見る教養があり、またそのユーモアを楽しむ余裕があったのだろう。

 本展には他にも、たとえば書物の山で構成した「司書」のような‘職業絵’とか、絵をひっくり返すと別の絵が出てくる‘上下絵’とかが来ており、楽しい展覧会になっている。
(2017.8.4.国立西洋美術館)

(※)本展のHP
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする