Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

板倉康明/東京シンフォニエッタ「日仏女流作曲家の競演」

2021年12月24日 | 音楽
 年末になると演奏会は「第九」一色に染まるように思いがちだが、よく見ると、通常公演も続いている。昨日は東京シンフォニエッタの定期演奏会が開かれた。1994年創立の同団体の第50回となる定期演奏会だが、音楽監督・指揮者の板倉康明はトークのなかで「第50回ということを意識しないでプログラムを組んだ」と語っていた。

 今回のプログラムは日本とフランスの女性作曲家5人を特集したもの。いずれも現存の作曲家だ。世代は広範囲にわたる。日本とフランスの作曲家を同じ地平に並べて、いまの作曲家がなにを考えているのかを、世代のちがいという縦軸で捉える試みだ。いうまでもないが、女性という一般的な属性で捉えようとするものではない。

 1曲目はエディト・カナ・ドゥ・シジ(1950‐)の「雨、蒸気、スピード」(2007)。フルート(ピッコロ持ち替え)、クラリネット(バスクラリネット持ち替え)、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための曲だ。題名はターナーの絵画(ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵)からとられている。逆巻く霧のなかを疾走する蒸気機関車を描いた絵画だが、その音楽化だとしたら、疾走感や力強さが物足りない。

 2曲目は金子仁美の「連歌Ⅱ」(1999)。フルート、クラリネット、打楽器、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための曲。なにかを突き詰めたような、音楽の極北を思わせる曲だ。中間部のトリルの連鎖、バスドラムの執拗な響き、そしてエンディングの、すべてが解体した後の空虚な空間のような感覚が印象的だ。わたしは当夜の5曲のなかで、この曲にもっとも感銘を受けた。演奏も見事だった。

 3曲目はカミーユ・ペパン(1990‐)の「リラエ」(2017)。弦楽四重奏、ハープ、バスドラム、ヴィブラフォン、タムタムのための曲。ロックのようなビート感があり、乗りのよい、エンタテインメント性のある曲だ。いまの若い世代のひとつの傾向だろうか。

 4曲目は平川加恵の「静謐な日常における諧謔についての考察」(2013)。クラリネット(バスクラリネット持ち替え)、テナーサックス(アルトサックス持ち替え)、ホルン、チェロ、ピアノのための曲。この作曲家は前曲のペパンと同世代らしい。哲学的な題名だが、明るく、屈託のない、ユーモアを感じさせる曲だ。

 5曲目はリザ・ウット(1991‐)の「Sextuor」(2020)。Sextuorとはフランス語で六重奏曲という意味だ。アコーディオン、クラリネット、ソプラノサックス、ハープ、ヴィブラフォン、ヴァイオリンのための曲。音色の美しさと透明感をもった曲だ。なにかしら作曲者の独自性が感じられる。リザ・ウットという名前を記憶したい。
(2021.12.23.東京文化会館小ホール)
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