Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也/N響

2022年02月07日 | 音楽
 下野竜也指揮N響のオール・シューマン・プログラム。1曲目は「序曲、スケルツォとフィナーレ」から「序曲」。張りのある音と歯切れのよいリズム。シューマンらしい情緒にも不足しない。山/谷のメリハリが明快な演奏だ。変な言い方になるが、序曲だけ取り出すと、なるほど、これはいかにも序曲だと思った。演奏会の序曲にふさわしい。

 2曲目はピアノ協奏曲。ピアノ独奏は小林愛実。穏やかで(少なくとも第1楽章と第2楽章は)淡々とした演奏。テンポは遅めだ(これも第1楽章と第2楽章)。第3楽章ではそれまで抑えていた情熱を解放する感があったが、それでもスター然とした演奏ではない点が小林愛実だ。わたしはその個性を好ましいと思うが、ショパンはともかく(これについては後述)、シューマンではもうひとつ何かがほしい。

 アンコールにショパンのワルツ変イ長調作品42が演奏された。これはよかった。ショパンの甘さ、華やかさが、小林愛実の内省的な演奏で中和され、ほどよい香りが立ち昇るような感があった。

 3曲目は交響曲第2番。1曲目の「序曲」と同様に弦は14型、管は2管編成だが(ただし交響曲第2番ではトロンボーン3本が加わる)、オーケストラの鳴り方がちがう。交響曲第2番ではたっぷりと鳴る。音符の数が(音の密度が)交響曲第2番のほうが多い(密度が濃い)ということもあろうが、それだけではなく、演奏上のちがいもあるだろう。

 第2楽章スケルツォの精力的な演奏、第3楽章アダージョの弦の厚み(底光りのするような音色)、第4楽章のシンフォニックな演奏など、堂々たる演奏だった。壮年期の、気力体力ともに充実し、また経験も積んだ指揮者と、一流オーケストラとの、その両者がよくかみ合った演奏だ。

 プロフィールによると、下野竜也は1969年生まれ。若手だと思っていたが、もう50歳代だ。先日(1月20日)の読響とのブルックナーの交響曲第5番でも感じたことだが、オーケストラを鳴らすのがますますうまくなった。よく鳴るというだけではなく、肩の力を抜いて、力まずに鳴らすことができる。一皮むけたのかもしれない。

 当公演は本来ならパーヴォ・ヤルヴィが振るはずだった。首席指揮者としての最後の定期演奏会だったが、残念ながら来日は叶わなかった。パーヴォ・ヤルヴィへのインタビューがプログラムに載っている(N響のホームページでも読める)。「実をいうとコンサートをもっと世界に向けて配信してはどうかとプランニングした」とのこと。実現していたら、N響は世界のメジャーオーケストラの仲間入りを果たしたかもしれない。見果てぬ夢か。
(2022.2.6.東京芸術劇場)
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