ヴァイグレ指揮読響の定期演奏会。メインの曲目はブラームスの「ドイツ・レクイエム」だが、その前にダニエル・シュニーダーの「聖ヨハネの黙示録」が演奏された。
ダニエル・シュニーダーDaniel Schnyder(1961‐)はチューリヒ生まれで、現在はニューヨークを拠点とする作曲家兼サクソフォン奏者だ。澤谷夏樹氏のプログラムノートによれば、「作品の幅は実に広い。室内楽からオペラまで300曲ほどが作品リストに並ぶ。なかには中国、アラブ、アフリカの民俗的な素材を用いたもの、バロック音楽やジャズを下敷きにしたものも」ある。
「聖ヨハネの黙示録」は2000年にアメリカのミルウォーキー交響楽団の委嘱により作曲された。演奏時間約30分のオラトリオだ。黙示録というと、フランツ・シュミット(1874‐1939)の「七つの封印の書」を思い出すが、それとくらべると、シュニーダーのこの曲は、ストーリー展開がスピーディーで、音楽も聴きやすい。澤谷夏樹氏のプログラムノートにあるように、最後の救済の場面では「ルンバ調」の音楽になる。
ソプラノ独唱とバリトン独唱、そして合唱が入る(「ドイツ・レクイエム」と同じ編成だ)。ソプラノはファン・スミSumi Hwang。スリムな体形で声もスリムだが、(とくに「ドイツ・レクイエム」で感じたのだが)高音が強くよく伸びる。バリトンは大西宇宙。立派な声だ。合唱は新国立劇場合唱団(合唱指揮は冨平恭平)。透明感のある合唱だ。演奏全体は、オーケストラともども、鮮明ですっきりした音像を結び、日本初演のこの曲の、わたしたち聴衆への理想的な紹介になったと思う。加えて、字幕がついたので、曲の理解に有効だった。
次の「ドイツ・レクイエム」でも字幕がついた。そのお陰で、ブラームスが歌詞に合わせて音楽に陰影をつけていることや、細かく自然を描写していることがわかった。演奏はそれらを過剰にでもなく、また不足もなく、適度に、慎ましく表現していた。ニュアンス豊かで集中力のある演奏だ。羽毛のように柔らかい音から、ずっしりした重い音まで、多様な音が紡がれるが、その変転はスムースだ。たとえていえば、安定走行の高級車に乗っているような心地よさだ。
ヴァイグレが読響の常任指揮者になってから3年半がたつ。だんだんヴァイグレ/読響の個性がはっきりしてきたと思う。すっきりした造形と柔らかいクッションのような響き。そして音楽的な内実に欠けない演奏。従来のドイツ系指揮者とは異なり、また現代の(互いにしのぎを削る)指揮者たちの中でもユニークな個性だ。そのようなヴァイグレ/読響が、声楽付きの大曲で本領を発揮することが、今度の「ドイツ・レクイエム」で証明されたと思う。今後の展開に期待したい。
(2022.9.20.サントリーホール)
ダニエル・シュニーダーDaniel Schnyder(1961‐)はチューリヒ生まれで、現在はニューヨークを拠点とする作曲家兼サクソフォン奏者だ。澤谷夏樹氏のプログラムノートによれば、「作品の幅は実に広い。室内楽からオペラまで300曲ほどが作品リストに並ぶ。なかには中国、アラブ、アフリカの民俗的な素材を用いたもの、バロック音楽やジャズを下敷きにしたものも」ある。
「聖ヨハネの黙示録」は2000年にアメリカのミルウォーキー交響楽団の委嘱により作曲された。演奏時間約30分のオラトリオだ。黙示録というと、フランツ・シュミット(1874‐1939)の「七つの封印の書」を思い出すが、それとくらべると、シュニーダーのこの曲は、ストーリー展開がスピーディーで、音楽も聴きやすい。澤谷夏樹氏のプログラムノートにあるように、最後の救済の場面では「ルンバ調」の音楽になる。
ソプラノ独唱とバリトン独唱、そして合唱が入る(「ドイツ・レクイエム」と同じ編成だ)。ソプラノはファン・スミSumi Hwang。スリムな体形で声もスリムだが、(とくに「ドイツ・レクイエム」で感じたのだが)高音が強くよく伸びる。バリトンは大西宇宙。立派な声だ。合唱は新国立劇場合唱団(合唱指揮は冨平恭平)。透明感のある合唱だ。演奏全体は、オーケストラともども、鮮明ですっきりした音像を結び、日本初演のこの曲の、わたしたち聴衆への理想的な紹介になったと思う。加えて、字幕がついたので、曲の理解に有効だった。
次の「ドイツ・レクイエム」でも字幕がついた。そのお陰で、ブラームスが歌詞に合わせて音楽に陰影をつけていることや、細かく自然を描写していることがわかった。演奏はそれらを過剰にでもなく、また不足もなく、適度に、慎ましく表現していた。ニュアンス豊かで集中力のある演奏だ。羽毛のように柔らかい音から、ずっしりした重い音まで、多様な音が紡がれるが、その変転はスムースだ。たとえていえば、安定走行の高級車に乗っているような心地よさだ。
ヴァイグレが読響の常任指揮者になってから3年半がたつ。だんだんヴァイグレ/読響の個性がはっきりしてきたと思う。すっきりした造形と柔らかいクッションのような響き。そして音楽的な内実に欠けない演奏。従来のドイツ系指揮者とは異なり、また現代の(互いにしのぎを削る)指揮者たちの中でもユニークな個性だ。そのようなヴァイグレ/読響が、声楽付きの大曲で本領を発揮することが、今度の「ドイツ・レクイエム」で証明されたと思う。今後の展開に期待したい。
(2022.9.20.サントリーホール)