Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル

2022年10月22日 | 音楽
 日本フィル首席指揮者としてのインキネンの最終シーズンが始まった。今回はベートーヴェンの交響曲第8番と第7番。あとは来年4月の東京定期でのシベリウスの「クレルヴォ交響曲」と5月の横浜定期でのシベリウスの交響詩「タピオラ」とベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」を残すのみだ。わたしはシベリウスの2曲が楽しみだ。

 今回のベートーヴェンの交響曲第8番と第7番を聴いて、インキネンはたしかに日本フィルにそれまでの日本フィルにはない音をもたらしたと思った。ラザレフの着任前にはどん底状態にあった日本フィルだが、それをラザレフが立て直した。着任早々のプロコフィエフの交響曲チクルスでは、目の覚めるような色彩豊かな演奏を繰り広げた。その後の、とくにショスタコーヴィチの交響曲の数々では、レニングラード音楽院でショスタコーヴィチの姿を見ながら学んだラザレフならではの、ある種の絶対的な演奏を聴かせた。

 その後を継いだインキネンは、弦楽器奏者に、弓を弦に押し付けずに、軽く、ふくらみのある音を出すよう求めた。リズムも重く粘らずに、シャープなものを求めた(これは弦楽器奏者だけではなく、すべての奏者に、だ)。その結果、リフレッシュされ、清新で、しかも華やぎのある音が生まれた。

 もちろん軽いだけではなく、エッジの効いた、鋭角的に切りこむ音もあり、また重低音の唸りもある。それらの要素を加えた、全体的な音のイメージがインキネンにはあり、それを日本フィルに求めた。そしてついに日本フィルを掌握し、一応の完成をみた。それが今回のベートーヴェンの2曲だったのではないだろうか。

 第8番と第7番は、基本的には同じコンセプトの演奏だったが、音のイメージが微妙に違った。それをどういったらいいのか。うまく表現できないのだが、端的にいって、弦楽器の編成が、第8番では12‐12‐10‐8‐6だったのにたいして、第7番では14‐12‐10‐8‐7だったように思う。ともかく第1ヴァイオリンとコントラバスの数が微妙に違っていた。その意図するところから、インキネンの音のイメージが想像される。

 全体的には速めのテンポだったが、そんなに極端ではない。むしろそのテンポ設定の中で、たとえば車窓を流れる風景のように、細かいフレーズが飛び去っていくのが心地よかった。若くて優秀な指揮者の(若いというよりは、もう中堅の域に入っているが)明晰な音感覚を目で見るようだった。

 第7番の第4楽章は圧倒的に盛り上がった。インキネンは一見クールに見えるが、内には熱いものを秘めている。それがマグマのように噴き出した瞬間だった。
(2022.10.21.サントリーホール)
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