新国立劇場の「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」の交互上演。先日の「終わりよければすべてよし」に引き続き「尺には尺を」を観た。「尺には尺を」は以前戯曲を読んだことがあるが、観劇前に再読した。戯曲もおもしろいが、実演だとおもしろさが増す。
一番印象に残ったことは、大詰めの場面でマリアナが公爵代理のアンジェロをかばい、イザベラに「あなたも公爵様にアンジェロの助命を願って」と頼む場面の演出だ。イザベラにとってアンジェロは仇敵だ。イザベラは躊躇する。一瞬の沈黙。その劇的効果に息をのむ。緊張の頂点でイザベラはひざまずき、公爵にアンジェロの助命を願う。本作品のテーマは赦しなのかと思った。
それ以外にも、たとえばクローディオが獄中にあって死を覚悟するときのモノローグは、まるでハムレットのような深みがあった。そのモノローグをふくめて、作品全体からうねるようなダイナミズムを感じた。本作品はこんなに傑作だったのかと。
ダイナミズムは登場人物それぞれがドラマの進行とともに成長することから生まれるのだろう。主人公のイザベラは、神に仕えることを願う純粋無垢な娘だったが、前述したように大詰めでは、兄のクローディオを殺し(その時点ではそう思っている)、かつ自分の体を求めたアンジェロの助命を公爵に願うに至る。アンジェロは冷徹なまでに自他に厳しいはずだったのに、イザベラの魅力に負けて、クローディオの助命と引き換えにイザベラの体を求める。そんな自分の弱さと醜さに気付く。また公爵はすべての出来事を仕切る「テンペスト」のプロスペローの前身のような役柄だが、その公爵さえ幕切れではイザベラに「妻になれ」と命じるオチが付く。
場所はウィーン。当節風紀が乱れている。公爵流の寛容な統治が良いのか。それとも公爵代理のアンジェロ流の厳格な統治が良いのか。またアンジェロがイザベラの兄・クローディオの助命と引き換えにイザベラの体を求めたとき、イザベラは兄のためにアンジェロに体を許すべきなのか。また兄は妹・イザベラの体を守るために死を受け入れるべきなのか。そんな二項対立の波間に揺れるドラマだ。
残念だった点が二つある。第一に音響が煩わしかったことだ。古いジャズや効果音がひっきりなしに使われる。しかも困ったことに、登場人物の重要なモノローグになると、きまって何かの音響が入る。第二にならず者のバーナーダインの獄中の場でショッキング・ピンクや黄色のけばけばしい照明が使われたことだ。なお、余談だが、その獄中の場に登場した死刑執行人のアブホーソンが、新国立劇場のシェイクスピア・シリーズの出発点となった「ヘンリー六世」のリチャード三世を彷彿とさせたのがお愛嬌だ。
(2023.10.26.新国立劇場中劇場)
(配役)
イザベラ:ソニン
アンジェロ:岡本健一
クローディオ:浦井健治
マリアナ:中嶋朋子
侯爵:木下浩之
一番印象に残ったことは、大詰めの場面でマリアナが公爵代理のアンジェロをかばい、イザベラに「あなたも公爵様にアンジェロの助命を願って」と頼む場面の演出だ。イザベラにとってアンジェロは仇敵だ。イザベラは躊躇する。一瞬の沈黙。その劇的効果に息をのむ。緊張の頂点でイザベラはひざまずき、公爵にアンジェロの助命を願う。本作品のテーマは赦しなのかと思った。
それ以外にも、たとえばクローディオが獄中にあって死を覚悟するときのモノローグは、まるでハムレットのような深みがあった。そのモノローグをふくめて、作品全体からうねるようなダイナミズムを感じた。本作品はこんなに傑作だったのかと。
ダイナミズムは登場人物それぞれがドラマの進行とともに成長することから生まれるのだろう。主人公のイザベラは、神に仕えることを願う純粋無垢な娘だったが、前述したように大詰めでは、兄のクローディオを殺し(その時点ではそう思っている)、かつ自分の体を求めたアンジェロの助命を公爵に願うに至る。アンジェロは冷徹なまでに自他に厳しいはずだったのに、イザベラの魅力に負けて、クローディオの助命と引き換えにイザベラの体を求める。そんな自分の弱さと醜さに気付く。また公爵はすべての出来事を仕切る「テンペスト」のプロスペローの前身のような役柄だが、その公爵さえ幕切れではイザベラに「妻になれ」と命じるオチが付く。
場所はウィーン。当節風紀が乱れている。公爵流の寛容な統治が良いのか。それとも公爵代理のアンジェロ流の厳格な統治が良いのか。またアンジェロがイザベラの兄・クローディオの助命と引き換えにイザベラの体を求めたとき、イザベラは兄のためにアンジェロに体を許すべきなのか。また兄は妹・イザベラの体を守るために死を受け入れるべきなのか。そんな二項対立の波間に揺れるドラマだ。
残念だった点が二つある。第一に音響が煩わしかったことだ。古いジャズや効果音がひっきりなしに使われる。しかも困ったことに、登場人物の重要なモノローグになると、きまって何かの音響が入る。第二にならず者のバーナーダインの獄中の場でショッキング・ピンクや黄色のけばけばしい照明が使われたことだ。なお、余談だが、その獄中の場に登場した死刑執行人のアブホーソンが、新国立劇場のシェイクスピア・シリーズの出発点となった「ヘンリー六世」のリチャード三世を彷彿とさせたのがお愛嬌だ。
(2023.10.26.新国立劇場中劇場)
(配役)
イザベラ:ソニン
アンジェロ:岡本健一
クローディオ:浦井健治
マリアナ:中嶋朋子
侯爵:木下浩之