Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ノット/東響

2023年10月16日 | 音楽
 ノット指揮東響の定期演奏会。1曲目はドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」のノット編曲版。オペラの中の主要場面を追ったオーケストラ曲だ。オペラだと歌と演技が入るので、濃密なドラマが展開されるが、歌と演技を欠くと(少し乱暴な言い方になるが)同じような音楽が延々と続く印象だ。ただ演奏は良かった。響きの移ろいが明確に意識されて、極上のドビュッシー演奏だった。

 2曲目はヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」。ドビュッシーの柔らかい、ニュアンスを大事にする音から一転して、荒削りな、音楽に食い込むような音に変わった。夢の世界から現実の世界へ。沸騰するような情熱の世界。その対照はノットの戦略だろう。

 プログラムに掲載されたノットへのインタビュー記事によれば、「グラゴル・ミサ」には3つの版があるそうだ。今回演奏されたのはPaul Wingfieldによるユニヴァーサル版。3つの版の中では間違いなくもっとも複雑な版だそうだ。

 たとえば「序奏」ではパートによって8分の5拍子、8分の7拍子、4分の3拍子に分かれ、それらが同時進行する。標準版ではそれらはすべて4分の3拍子に書き換えられている。もちろん標準版のほうが演奏しやすいだろうが、ヤナーチェクが当初考えた複雑な拍子の絡み合いは、いったいどんな音楽だったのだろうと、注意して聴いた。残念ながら各々の拍子を聴き分けることはできず、細かい音が交錯するように聴こえた。大胆にいえば、リゲティの萌芽のようなものを感じた。

 またユニヴァーサル版では、標準版では曲の最後に演奏される「イントラーダ」が曲の初めにも演奏される。結果的に「イントラーダ」が曲の前後をはさむ。そうなるとどうなるかというと、「イントラーダ」→「序奏」→(「キリエ」以下の通常ミサ曲)→「オルガン・ソロ」→「イントラーダ」の構成になる。標準版では浮いて見えていた「オルガン・ソロ」が「序奏」に対応するものとして落ち着く。

 最後にもう一点、これも大きな違いだが、「クレド」の中盤でオルガン・ソロが出る前に、3本のクラリネットが客席で(今回は2階RDブロックの前で)バンダ的に演奏する。標準版にはない箇所だ。その直後のオルガン・ソロとオーケストラの掛け合いでは、なんとティンパニが3対も使われる。思わず目をみはった。

 4人の独唱者がすばらしい。とくにソプラノのカテジナ・クネジコヴァの豊麗な声と、テノールのマグヌス・ヴィリギリウスのいかにもヤナーチェクらしい歌いまわしに感銘を受けた。東響コーラスの音圧のある合唱。大木麻理の見事なオルガン演奏。
(2023.10.15.サントリーホール)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする