Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新国立劇場「修道女アンジェリカ」&「子どもと魔法」

2023年10月10日 | 音楽
 新国立劇場の新制作、プッチーニの「修道女アンジェリカ」とラヴェルの「子どもと魔法」のダブルビル。予想以上に満足度の高い公演だった。歌手、指揮、演出などが作品の良さを引き出したからだろう。

 「修道女アンジェリカ」はプッチーニの「外套」、「修道女アンジェリカ」と「ジャンニ・スキッキ」の三部作の中で、わたしの一番好きな作品だ。プッチーニの悲劇のヒロインを蒸留してそれだけで一本のオペラを作った観がある。だが残念ながら、実演に接する機会はまれだ。三部作の一挙上演の機会でもなければ、なかなか実際の舞台を観ることはできない。わたしは今度が初めてだ。

 公演はすばらしかったと思う。まず、なんといっても、アンジェリカを歌ったキアーラ・イゾットンが良かった。なめらかで繊細な歌唱から、感情をこめた劇的な歌唱まで、アンジェリカのキャラクターを細大漏らさず表現した。プロフィールを読むと、欧米の主要劇場で歌っている人のようだ。さもあらんと思う。また、アンジェリカと対峙する侯爵夫人を歌った齊藤純子も健闘した。冷徹な役柄を歌って一歩もひるまなかった。

 演出は粟国淳。幕切れの場面では、実際の子どもは登場せず、瀕死のアンジェリカだけに見える幻影として演出した。たぶんそれは現代では一般的だろう。興味深い点は、そのときアンジェリカが金色の光に包まれることだ。幕開きの場面で修道女たちが「今日は夕日が修道院の泉を金色にそめる日」と歌ったことに照応する。そして「去年はこの日、一人のシスターが亡くなった」と。アンジェリカの死はそれと対応する。

 「子どもと魔法」も実演を観るのは初めてだ。文句なしに楽しい舞台だ。ただ子どもを歌ったクロエ・ブリオは、容姿は適役なのだが(他のオペラでは「ペレアスとメリザンド」のイニョルドを歌っているらしい。それも良いだろう)、当日は今ひとつ覇気がないように感じた(歌はしっかりしていると思ったが)。他の歌手では、お姫様や夜鳴き鶯などを歌った三宅理恵が美しいコロラトゥーラを聴かせた。

 その「お姫様」だが、絵本から飛び出したお姫様は、子どもの初恋の人だった。お姫様は子どもが絵本を破いてしまったことを嘆きながら去る。子どもにとっては初めての喪失だ。その場面の演出が美しかった。子どもは少し成長したのではないかと思った。子どもが怪我をしたリスに包帯を巻くのは、その場面の経験があって成長したからではないか。

 沼尻竜典指揮の東京フィルは、プッチーニの抒情と劇的な表現、ラヴェルの透明で洒脱な音楽を的確に描き分けた。沼尻竜典は手堅いオペラ指揮者になった。
(2023.10.9.新国立劇場)
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