Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

秋山和慶/東響

2024年09月22日 | 音楽
 「秋山和慶指揮者生活60周年記念」と銘打った秋山和慶指揮東響の定期演奏会。60周年とはすごいことだ。生まれたての赤ちゃんが還暦を迎えるまで、秋山和慶は指揮者生活を続けてきたわけだ。わたしのような勤め人の生活を送った者には考えられない長さだ。一種の職人のような仕事の仕方かもしれない。いまの秋山和慶には仕事一筋に打ちこんだ職人が到達する崇高な輝きがある。

 1曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」。ヴァイオリン独奏は竹澤恭子。秋山和慶は東響の音楽監督・常任指揮者時代にシェーンベルクの「グレの歌」や「モーゼとアロン」などを演奏した。60周年記念演奏会にベルクを取り上げるのは自然なことかもしれない。

 竹澤恭子の艶のある音色と密度の濃い表現もすばらしいが、オーケストラの細かく丁寧なアンサンブルもすばらしかった。竹澤恭子のヴァイオリンがオーケストラのアンサンブルに組み込まれるような演奏だった。その混然一体となった音響がこの曲にふさわしい。第2部冒頭の激しい音楽も音が混濁せず、かつ過度に激情的にならずに、終始一貫した音楽の流れがあった。

 竹澤恭子のアンコールがあった。バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から第3楽章「アンダンテ」。人の歩みのような伴奏音型にのって無私の境地の旋律が続く。平常心の音楽だが、じつは平常心こそもっとも尊いと思わせる。秋山和慶の人生を象徴するようだった。

 2曲目はブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」(1878/80年稿ノヴァーク版)。最近の秋山和慶らしく、大きく構えて、音楽の形を崩さず、かつ随所に豊かなニュアンスが施された演奏だ。わたしはとくに第2楽章に惹かれた。ヴィオラが、チェロが、そして第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンが浮き沈みする。その澄んだ音色と、どこか孤独な表情が胸にしみる。いまの秋山和慶の心象風景かもしれない。

 第3楽章スケルツォの主部の中間部分では、少しテンポを落とした。わたしは第2楽章に通じる情感を感じた。第4楽章は終始ペースを崩さずに、一歩一歩進んだ。その強靭な精神力と体力がすばらしい。最後には記念碑的な大演奏が達成された感があった。

 終演後、オーケストラから花束が贈呈された。真っ赤なバラだ。60本あったそうだ。60年前に東響の解散という事態に直面して、東響から離れずに、東響を支え続けた秋山和慶だ。その生き方がむくわれた瞬間ではなかったろうか。
(2024.9.21.サントリーホール)
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