Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」

2022年05月23日 | 音楽
 新国立劇場の新制作「オルフェオとエウリディーチェ」。演出・振付・美術・衣装・照明のすべてを勅使河原三郎が担当した。なので、様式的に統一がとれている。上掲の画像(↑)にあるような白百合がつねに舞台上に置かれている。美しいが、葬儀のときの祭壇のようでもある。舞台上には大きな円盤がある。オルフェオ、エウリディーチェ、アモーレ(愛の神)の3人は円盤上で歌い、演じる。合唱は床の上だ。

 考えてみると、このオペラは奇妙なオペラだ。冥界でオルフェオとエウリディーチェが出会う、ドラマのその最高潮のときに、オルフェオはエウリディーチェを見てはいけないという制約がある。原作の神話がそうだからしかたがないのだが、その奇妙な制約のもとで、オルフェオとエウリディーチェの情熱の高まりと、その一方での距離感を表すには、狭い円盤上で右往左往することが効果的だったと思う。

 本公演ではウィーン版が使われ、パリ版の一部が挿入された。それ以外に第3幕のフィナーレの前のダンスが、一部は第2幕の前に、また一部は第3幕の前に移された。これはエウリディーチェの蘇生からフィナーレへの流れをダンスで中断しないためだろう。そのフィナーレでは、オルフェオとエウリディーチェを祝福するように、合唱が円盤の縁に白百合を供える。それは、見ようによっては、葬儀のときの献花のようでもある。そして幕が下りる直前に、舞台は暗転した。暗闇の中にオルフェオの当惑したような顔が浮き上がる。今までみてきたものは、オルフェオの夢だったのだろうか。

 わたしがミュンヘンのバイエルン州立歌劇場でみた公演(2005年7月)では、オルフェオとエウリディーチェの感情が生々しく描かれる一方、冥界の場面がコミカルに描かれ、家族連れの姿も目立った。新国立劇場の本公演は、それとは対照的に、スタイリッシュな舞台だった。

 その舞台への最大の貢献は、いうまでもなく勅使河原三郎の振付と、それを踊った4人のダンサーだ。中でもアーティスティック・コラボレーターの肩書をもって参加した佐東利穂子の表現力豊かなダンスは、言葉を失うほどだった。

 オルフェオを歌ったのはローレンス・ザッゾだ。幕開きの合唱の中から「エウリディーチェ!」と第一声を発する、そのカウンターテナーの声が、たちまち聴衆を魅了した。エウリディーチェを歌ったのはヴァルダ・ウィルソン。長身で手足が長く、スリムで、ひじょうに舞台映えのする人だ。歌も問題ない。指揮は鈴木優人。オーケストラは東京フィルなので、モダン楽器だったはずだが、ピリオド様式を取り入れ、またコルネット(ツィンク)などの古楽器を加えていた。
(2022.5.22.新国立劇場)

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