孤立しているネオコンに従属する安倍首相は国民から軽蔑され、政策の恐ろし
さが伝わっていない?
2016.04.03 櫻井ジャーナル
日本人は確実の破滅への道を歩んでいる。これまで不公正な仕組みで富を日米の
支配層へ集中させてきたが、最近は、初めから破綻が明らかな「アベノ ミク
ス」や主権を巨大資本へ贈呈するTPP(環太平洋連携協定)を推進、巨大資本を
儲けさせるための戦争に戦闘員を派遣する体制を整備しつつあ る。アル・カイ
ダ系の武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)、
あるいはネオ・ナチの場合は傭兵であり、幾 ばくかのカネを貰っているのだ
が、日本人の場合は無償の奉仕になるだろう。
そうした道へ日本人を導いているひとりが安倍晋三首相だが、庶民から畏怖、恐
怖されているわけではなさそうだ。おそらく軽蔑されている。その程度 の人間
にすぎないため、恐ろしい政策を打ち出しても人びとは危機感を抱かないのかも
しれない。安倍首相を操っているのであろうアメリカのネオコン /シオニスト
は、その辺を狙っているのだろうか?
現在、そのネオコンが置かれた環境は悪くなっている。この勢力は1970年代、
ジェラルド・フォード大統領の時代に台頭、ベンヤミン・ネタニヤフ のような
イスラエルの好戦派と一心同体の関係にある。
リチャード・ニクソン政権の副大統領だったスピロ・アグニューは汚職事件で失
脚、それに替わってフォードは副大統領に就任、次にニクソン大統領が 辞任し
て副大統領から大統領へ昇格、大統領になるとデタント(緊張緩和)派の粛清を
実行した。いわゆる「ハロウィーンの虐殺」である。
こうした動きの背後で暗躍していたのはポール・ニッツェやアルバート・ウール
ステッター。このふたりが雇っていたスタッフにはポール・ウォルフォ ウィッ
ツ、リチャード・パール、エドワード・ラトワク、ピーター・ウィルソンがい
た。のちにネオコンと呼ばれる人びとだ。特に人事で注目されたの はCIA長官の
交代。秘密工作の一端を議会で明かしたウィリアム・コルビーが解任されて
ジョージ・H・W・ブッシュが就任したのだ。当時、ブッ シュを「素人」と呼ぶ
人もいたが、実際にはエール大学でCIAにリクルートされた可能性が高く、彼の
周辺には情報機関、そして親ナチ派の人脈が張 り巡らされている。また国防長
官はジェームズ・シュレシンジャーからドナルド・ラムズフェルド、大統領首席
補佐官はラムズフェルドからリチャー ド・チェイニーへ交代している。ちなみ
に、ウォルフォウィッツは軍備管理軍縮局にいた。
ラムズフェルドを動かしていたのは国防総省のアンドリュー・マーシャルONA室
長やフリッツ・クレーマー。1992年にDPG草案として作成され た世界制覇プラン
はマーシャルのアイデアに基づき、ウォルフォウィッツ国防次官たちが作成した
と言われている。このDPG草案は「ウォルフォ ウィッツ・ドクトリン」とも呼ば
れている。
この草案は1991年12月のソ連消滅を念頭に作成され、アメリカが「唯一の超大
国」になったということが前提になっている。アメリカ支配層の横 暴に逆らえ
る勢力は存在しないという認識だ。後は潜在的なライバル、つまり旧ソ連圏、西
ヨーロッパ、東アジアを潰し、膨大な資源を抱える西南アジ アを支配しようと
いうわけである。
DPG草案が作成される前年、そのウォルフォウィッツはイラク、シリア、イラン
を5年以内に殲滅すると語り、2001年9月11日にニューヨーク の世界貿易セン
ターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された(9/11)直
後には、ラムズフェルド国防長官の周辺でイラ ク、シリア、レバノン、リビ
ア、ソマリア、スーダン、そしてイランを先制攻撃する計画ができあがってい
た。これはヨーロッパ連合軍(現在の NATO作戦連合軍)の最高司令官だった
ウェズリー・クラーク大将の話だ。このクラーク元最高司令官はCNNの番組で、
アメリカの友好国と同盟国 がダーイッシュを作り上げたとも語っている。
ネオコンは現在でもこの世界制覇プランを放棄していないようだが、1992年当時
と状況は大きく変化している。最大の変化はロシア。西側支配層の 傀儡だった
ボリス・エリツィンが退場し、ウラジミル・プーチンが登場してからロシアは再
独立したのだ。アメリカ支配層の思い通りにはならなくなっ たということだ。
ところが、状況の変化を受け入れられない人がいるようで、フォーリン・アフェ
アーズ誌(CFR/外交問題評議会が発行)の2006年3/4月号に キール・リーバー
とダリル・プレスがロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊
できると書いている。
そして2008年8月、アメリカやイスラエルの支援を受けたジョージア(グルジ
ア)のミヘイル・サーカシビリは南オセチアを深夜近くに奇襲攻撃、 軍事侵攻
した。この攻撃を立案したのはイスラエルだと推測する人もいるが、その作戦は
すぐに失敗だということが判明する。ロシア軍が素早く反撃、 侵攻作戦を粉砕
してしまったのだ。
ネオコンのビクトリア・ヌランド国務次官補によると、アメリカ支配層はウクラ
イナを制圧するため、1991年から50億ドルをつぎ込んだという。 そして2014年2
月22日、ウクライナではネオコンに操られたネオ・ナチ(ステファン・バンデラ
派)を中心とするクーデターでビクトル・ヤヌコ ビッチ大統領を排除した。
選挙で合法的に選ばれた政権をクーデターで倒しわけで、言うまでもなく憲法の
規定には反している。クーデター政権を拒否するのはウクライナの主権 者に
とって当然の権利。ヤヌコニッチの支持基盤であったウクライナの東部や南部に
住む人びとはその権利を行使したのだが、それを西側の政府、メ ディア、そし
て「リベラル派」や「革新勢力」も批判していた。
ジョージアのケースが頭にあったのか、西側メディアの「報道」を見ると、ロシ
ア軍の介入を前提にした「予定稿」を作成していたようだ。が、実際は 動か
ず、ウクライナの住民による抵抗でネオ・ナチによる全土支配は失敗した。
それでも西側には「唯一の超大国幻想」を抱き続けている人がいたようだが、昨
年9月30日に大きく戦況が変化する。シリアでロシア軍が空爆を開 始、アル・カ
イダ系武装勢力やダーイッシュを敗走させ、政府軍の勝利は確定的な状況になっ
てきたのだ。戦闘機や巡航ミサイルによる攻撃能力が西側 の想像を遥かに超え
るもので、最近は通常戦でNATOはロシア軍に勝てないと言われるようになってきた。
ネオコンの基本戦略は圧倒的な軍事力で脅せば相手は屈服するというもの。ニク
ソン米大統領は自分たちが望む方向へ世界を導くため、アメリカは何を しでか
すかわからない国だと思わせるべきだと考え、イスラエルのモシェ・ダヤン将軍
は狂犬のように行動しなければならないと語っている。ふたりと も脅せば思い
通りになると思っているのだろうが、ネオコンも同じ考え方をしている可能性が
高い。
しかも、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると考
えていた。1950年代から60年代にかけてもそうだったが、米英の 支配層は戦争
で圧勝できると信じたとき、先制核攻撃を目論む。その考え方が間違っているこ
とをロシアはシリアで示した。
そこでネオコンに同調する勢力は減り始めているようだが、ネオコンは今でも
1992年のウォルフォウィッツ・ドクトリンを諦めていない。ヒラ リー・クリン
トンが大統領に選ばれれば、その計画を実行しようとするだろう。
安倍政権は同調しそうだが、世界的に見るとネオコンは孤立しはじめている。バ
ラク・オバマ大統領もマーチン・デンプシー前統合参謀本部議長と同じ 側に
立ったという噂も流れている。この情報が正しいなら、「風見鶏」のオバマがデ
ンプシーに近づいたということになり、支配層の内部でそうした動 きが強まっ
ているということを感じさせる。