福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

坂東観音霊場記(亮盛)・・・27/31

2023-08-27 | 先祖供養

 

第廿九番下総千葉(現在も第29番は海上山千葉寺)

下総國葛飾郡千葉郷海上山観音院は千葉寺と名く。生身の観音説法の處なり。勅して三界六道青蓮千葉寺と號す。人王四十五代聖武帝の御宇、天平二年秋八月、行基大士武蔵國を経て當國の海邊を過玉ふ。前途、海を去ること不遠して池田の郷に大なる池あり。大士池中を臨見玉へば、水金色にして栴檀の香あり。彌視に中央に雲気集まり、雲中に微妙の聲有て、三界六道皆解脱と聞、大士奇異の念を為しけるに倏ち風吹雲散じて見れば千葉の青蓮華一の茎を生じ、水上に出て清香を送る。華已に圓滿開敷して其の中に十一面観自在尊、光明赫奕として説法し玉ふ。大士敬んで真容を拝し奉れば、圍繞の諸聖衆と共に雲に乗りて西天に去り玉ふ。是に於いて大士其の真容を模め丈六の十一面の像を彫、一宇の蓮宮を構て、大悲の寶刹を剏玉ふ。彼の青蓮華を禁庭へ献じ、事の由を具さに奏聞し奉る。聖武皇帝叡感の餘り三界六道青蓮華千葉寺と云震筆の御額を下賜ふ。千葉の瑞蓮生して葛飾郡を割て、千葉郡と名く。池田村を改めて千葉郷と名く。大悲の直説に依りて、境地を三界六道と称す。瑞蓮に因で寺を青蓮千葉寺と号す。特に額を賜て勅号也。「只頼め三界六道の一切衆生(さしもぐさ)我世間(よのなな)に有ん限りは」此の一首は清水観音の聖詠なりとかや。今此地名も大悲者の直説なれば、しめじがはらと称ふる乎。

如来蔵經に云、尒時、世尊栴檀重閣に於いて正く道場に座して而も神變を現ず。千葉の蓮華有り、大さ車輪の如し。華中の化佛各々無数百千の光明を放つ云々。(「大方等如來藏經」「

爾時世尊於栴檀重閣。正坐三昧而現神變。有千葉蓮華大如車輪。其數無量色香具足而未開敷。一切花内皆有化佛。上昇虚空彌覆世界猶如寶帳。一一蓮花放無量光。」)。智度論に云、蓮華に三種有り。一には人華十葉已上。二には天華。百葉已上。三には菩薩華、千葉已上。菩薩花は浄土の蓮華也。(「大智度初品中十方菩薩來釋論第十五之餘卷第十」「復次蓮華有三種。一者人華二者天華三者菩薩華。人華大蓮華十餘葉。天華百葉。菩薩華千葉。彼世界中多有金色光明千葉蓮華。娑婆世界中。唯有化華千葉。無水生者。以是故遣是蓮華千葉金色」。)不空羂索經に云、尒時、観世音菩薩此の陀羅尼真言を説玉ふ。時に三千大千世界六變に大に動きて其の穂陀洛山の上下周囲普遍して地より一時に衆寶蓮華を沸出す。観世音菩薩臍の中より大光明を放て、千葉衆寶蓮華を沸出す云々(「不空羂索神變眞言經卷第十七

・根本蓮華頂陀羅尼眞言品第三十」「爾時觀世音菩薩摩訶薩。説是陀羅尼眞言

時。三千大千世界六返大動。其補陀洛山上下周圓溥遍從地。一時涌出衆寶蓮華。觀世

音菩薩摩訶薩臍中。放大光明出現千葉衆寶蓮華。青琉璃寶以爲其幹。閻浮檀金而爲

其臺。赤珠爲14子白珠鬚蕊。其華復放種種色光。徹照十方一切刹土。」)。大日経疏に云、三蔵の説く西方の蓮華に多種有り。一には鉢頭麽、二には優鉢羅、三には俱勿頭、四には泥慮鉢羅、五には分荼利迦也(「大毘盧遮那成佛經疏卷第十五祕密漫荼羅品第十一之餘」「復次三藏説。西方蓮花有多種一者鉢頭摩、復有二種一者赤色即此間蓮華也 二者白色今此間   

有白蓮是也。非芬陀利。優鉢羅    亦有赤白二色。又有不赤不白者。形似泥盧鉢羅花也。倶勿頭  有赤及青二種。又云倶勿頭是蓮花青色者。泥盧鉢羅  此華從牛糞種生

極香。是文殊所執者。目如青蓮亦是此也。更有蘇健他迦花。亦相似而小花。分荼利迦        花可有百葉。葉葉 相承圓整可愛。最外葉極白漸向内色漸微黄。乃至最在

内者與萼色相近也。此花極香也。昔琉璃王害釋女時。大迦葉於阿耨達池。取此花5裹八功徳水灑之。諸女身心得安樂命終生天。因是投花於池遂成種。至今猶有之。花   

大可愛。徑一尺餘尤可愛也。此法花所引申者是。是漫荼羅八葉者也」)。菩提心義に云、鉢頭摩は青蓮華、優鉢羅は黄蓮華、俱勿頭は赤蓮華、分荼利は白蓮華。名義集に云、蓮華に三名有り。未だ敷かざるを屈摩羅と名く。将に落ちんとするを迦摩羅と名く。中に處して盛なるを時を分陀利と名く。體は時を逐て遷り名は色に隋て變ず(翻譯名義集・百華篇第三十三「未敷名屈摩羅。將落名迦摩羅。處中盛時。名分陀利。體逐時遷。名隨色變。故有三名」)。大日経義釈に云、青蓮華の形は猶楊柳の如し、準て四種の蓮華各別なり。又色も下邊に約して以て青黄赤白と為す。而も實には四が中に各々餘色有りと云々。妙法蓮華の色は五色の中には何と云事、台家に於いて多義あり。其の中の一義に云、青蓮華なるべし。大論に云、観の中には空観第一なり。華の中には青蓮華第一なり。青蓮は賢聖の出處に非ざれば生ぜざる也。常に佛の慈眼を請ずるに、青蓮慈悲の御眸なりと云。世間にも人を愛する眼は青く、人を悪む眼は赤色也。佛は衆生を憐む慈眼なれば青色柔和の御眸なり。法華経は佛の大悲の躰なれば首題の蓮華も青色乎。又は赤黄白黒等も各々深義あり(法華談鈔)。

巡礼詠歌「法(のり)のた子(ね)三界六道(しめじがはら)に華咲て、普き門に 匂ふ千葉寺」上の句の法の種とは蓮華の事也。即ち観音の持物なり。三界六道とは、近くは當地、廣くは娑婆世界、下の句は千葉青蓮の香気を大悲普門の本誓に譬ふ。尚深義有ん。禿筆の叵及(およびがたき)所なり。有為の世界は月の盈昃(えいしょく)の如く、霊場も時變の殃灾を免れず。永暦元庚辰の夏、雷電風雨烈しく、一の火聚室内に飛入り、諸堂一時に炎上して佛像經巻所有霊寶皆焼失て烏有の地と成る。寺務供僧等甚患哀み特に本尊や勅額の事を歎く。然るに本尊火中を遯出玉ひ、遥かに西の林に飛移り、大木の櫻の枝に在しける。乃し本尊有縁の地ならんと、其の木の本に一宇を構へ尊像を安置し奉る。今の堂地即ち是也。𦾔跡は八町余東の方也。三界六道も観音塚とも云。尒より櫻を観音心木と称し、千葉の郷出生の者は甚だ櫻木を貴重する事なり。奇なる哉、本尊の開帳には必ず花の咲くこと時節に拘らずと。予が巡礼は明和三戌の初冬、幸いに開帳の中なれば山内を尋ねて試みるに落葉半ば過ぎたる枝に瘁たる花三四輪を見たり。

頼朝公石橋山に於いて、大庭の三郎景親等と戦ひ、敗北して僅に六騎と成。真名鶴が崎より房州へ渡り玉ふ。北條の一族、三浦の一統、各々前後を争ひ渡ける。頼朝公洲崎明神へ社参して、終夜武運の榮を祈玉ふ。其夜明神の靈告に「源は同じ流ぞ、石清水、只せきあげよ 雲のうへまで」。頼朝叵有の餘、幣帛を捧、返歌を奉る。「源は同じ流れの石清水 せき上てたべ雲の上まで」。斯て加勢の先陣には安西三郎景益上総介廣常、千葉の介常胤なり。各々上総の市原を発して先ず千葉寺に陳宿あり。頼朝公宝前に通夜して、四海安寧を祈玉ふ、時に武蔵常陸上野等の諸軍の味方馳加はり終に平家を討亡して、天下源氏に一統し玉ふ。是単に千葉本尊の冥助なりと。建久三壬子(1192)の春、千葉介常胤に命あって、伽藍の再営𦾔観に復す。頼朝武威の像を造り、白旗明神と祭り、其の側に常胤の像有り。是當山の鎮守なり。正徳年中(1711年から1716年)の事なるに、旅客三十余人乗合、江戸芝鉄砲洲を出帆して、下総の國へ渡る所に、夜中俄かに悪風起こり帆柱折、梶砕て舩覆り、舩中の諸人皆溺死す。中に一人坂東巡礼あり。武蔵の國入間郡の内、山口千手堂境内閻魔堂司本性と云者なり。相模八箇所浅艸弘明寺を納め、千葉寺へ趣く路なり。此者不計も折たる梶に取付、浮つ沈みつ浪に打寄られ、千葉の浦登戸の濱に著。海中に漂泊する事一日一夜、已に飢寒(こごへ)て息断とす。然るに間近く鐘の聲耳に入り、夢の覚めたる如く意付、眼を開て傍を見るに、其の身、海藻に包れながら、梶を抱て磯辺に居り。万死を逃て陸に上がり、濱邊の家の介保を受。人意地付けれども、背負たる皮籠を失へば、旅中の調度一物もなし。其村里を托鉢修行して漸く千葉寺へ参著きしに、寺僧等此の者を見て曰く、旅人は武蔵の巡礼ならずや。今朝一人の旅僧来り、我同行水難に逢て気分不快にして途に逗(とどま)る。夕方には参著すべし、此の皮籠を渡し玉はれ、我は近郷の托鉢すべしと。錫を振、鉢を持して出去ぬと。本性是を見、是を聞くに紛れもなく我が皮籠なり。納経帳其外の調度まで損失もなく、水にも湿はず。此の皮籠は破舩して海に沈み、特に同行も曽て無しと。始終を物語しければ、聞者竪毛して感信せり。此の者危うき海上を渉ることも、単(ひとへ)に千葉寺への志なれば、豈大悲者此の難を救はざらんや。

下総千葉寺に於いて、毎年極月晦日の夜、千葉一郡の人集まり、頭面を匿し、音を替て土地の支配庄屋等の依怙贔屓非道あるをば甚だ嘲て大笑す。又道を守り正直

なるをば大に此を褒美する。人此の笑に値事を耻じて、常に慎みて行跡を正す。又は不忠不孝の輩も、此の笑に逢て已後を改む。是大悲方便の教に起りて自然と善き教訓に成りぬ。是を下総の千葉笑と云也。

當寺に一口の古鐘有り。弘長元年辛酉(1261)十二月廿二日と銘ず。中古是を鋳改めんとして、江府鋳工へ送達す。鋳工是を打砕に、鐘は壊れず。却て其の身を損ず。或は温疫を悩む者あり。其の打つ鎚音甚だ奇く、千葉寺と呼に如たり。鋳工怪しみ恐れて送り返す。今尚堂内に納め置、巡礼者に結縁せしむ。相傳ふ、昔炉銅鑠(とろけ)ず、住僧甚だ怪歎て厳しく除障の密軌を修し、苦(ねんごろ)に大悲の冥助を祈る。若し今此願を成就せずんば我が身を炉中に投じて、身命を大悲者へ奉らんと。時に寶殿の扉自ら開け光明炉鞴(ろび。ふいご)を照玉へば、忽飛廉翔り祝融躍りて、宝鐘一時に型を出たりと。

 

 

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大乗起信論・・その26、 | トップ | 大乗起信論・・その27 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先祖供養」カテゴリの最新記事