日々の出来事 8月8日 遠野物語
今日は、柳田國男が亡くなった日です。(1962年8月8日)
柳田國男は、“遠野物語”(1912年発表)で知られる民俗学者です。
この遠野物語は、岩手県遠野市の地元の民話をまとめた説話集で、河童や座敷童などの妖怪に関するものや神隠しなどの日本古来の懐かしい原風景を多く含んでいます。
明治以降の急速な科学中心の近代化の中で、忘れられようとしていた日本の伝統的な民衆生活を学問の対象に据えた功績は高く評価されています。
柳田國男
☆今日の壺々話
河童
2002年、JR遠野駅から北東に4キロ程離れた小烏瀬川で河童が現れました。
このニュースは遠野テレビで9月6日に取り上げられ、河童は山の方に逃げて行くのが目撃されました。
そして、10月23日、東京スポーツが“衝撃写真 カッパ発見”として、一面写真入りで衝撃スクープします。
これを見て、東京のマスコミが騒ぎ出し、遠野テレビに日本テレビやTBS、ラジオ局3局から取材がやって来ます。
でも、この河童について地元の人は、地元民以外のイタズラと分かっていました。
理由は、遠野の河童は地元では赤色が常識で、写真の河童は赤く無かったのです。
それに、現場の小烏瀬川は熊が出るので、河童の格好で歩くバカは地元にはいないのです。
そして、河童がカメラマンと歩いているのも目撃されます。
で、結論は、日本テレビ“電波少年に毛が生えた”の企画で、タレントに河童の格好をさせて話題を取ろうとしたけれど、誰も相手にしてもらえないので、東京スポーツに写真を送りつけたのが真相でした。
でも、座敷わらしは、今も健在です。
ドタバタ
うちはよく怪奇現象が起きるので物好きな友人たちには好評。
別に悪さするわけでもないということで家族はみんなスルー。(電話を知らん婆さんがうっかり出ちゃってgkbrされたけど)
屋根裏で足音ドタバタされた時も茶飯事なので普通に友人を泊めたら、走り回る走り回る。
友人ガクブル。
友人「 うわーうわー。」
私「 悪させんで、平気平気。」
ドタバタドタバタ
私「 ○○来たから出血大サービスっぽいよ。」
因みにその友人お化けに好かれるっぽい。
ドタバタドタバタ・・・
ズサーーッ
友人「 ・・・こけた?」
私「 こけたな!」
天井に向かって大声
爆笑。
それ以来、走り回る子はいなくなってしまった。
座敷童子
阪神大震災の少し前、まだ六甲○ホテルに旧館があったころ、そこに泊まった母が座敷童子を見た。
母は仲のよい叔母と泊まったのだが、その時叔母はシャワーをつかっていて、母はうつらうつらしていた。叔母が浴室で『すみれの花咲くころ』を歌っているのがきこえていた。
すると突然、「きゃっきゃっ」と幼子の笑い声がすぐそばで聞こえて、見ると、身長30センチほどで、ベージュのドンゴロス(よくわからないけど母がそういうので)のようなものを着た、おかっぱ頭の幼女が母をみてわらっているのだった。
何が可笑しいのか、小さなもみじのような両手で口をかくし、いつまでも可愛い声でわらっている。
母は思わず、「あんた、こんなところに出てきたらいかんやないの」と言ったそうだ。
するとその幼子は、元気のよいこえで「はい!」といい部屋のドアに向かって歩いていったのだが歩き方が普通ではなかった。
長いドンゴロスのようなものを着ていたので足元はみえなかったが、動きが二本足のそれというより、まるでキャタピラーがついているかのように滑らかに床を移動していくのだ。
やがてドアの前にたどりつくと、その幼子はとどかぬドアのノブに手をのばしたかとおもうと、いきなり消えてしまったのだという。
あまりの出来事に、母は叔母に何も言えなかった。
後日、母は六甲○ホテルの支配人に思い切って手紙をおくったそうだ。
部屋でみたあの幼子のことをしらせるために。
ほどなく、支配人から思いがけなく返事をもらった。
なにぶん、長い歴史のあるホテルですので不思議なこともあるかと存じますとあり、件の部屋は神主さんを呼んで丁重にお清めをさせていただきました、という内容だった。
六甲○ホテルの旧館もとっくに取り壊され、今はない。
けれども母はいまだにあの、可愛い童女の笑い声が忘れられない、と言っている。
お話 遠野物語
§1 始
その年は記録的な大凶作だった。
夏、青々とした稲穂をつけるはずの梅次の田んぼも、茶色い枯れススキのような稲が頼りなく風になびくだけだった。
「 こりゃぁ・・いかん。」
梅次は一本の稲を手に取る。
諦めたように、しかしわずかな望みを託して実を指で押してみる。
実はサクッと乾いた音をたて、梅次の望みと共に、潰れた。
「 オギャァァァァ!オギャァァァァ!」
梅次の屋敷中に元気な赤子の鳴き声が響き渡った。
女の子だ。
本来喜ぶべきその知らせは、家人の顔を曇らせた・・・。
「 女か・・、・働き手にもなりゃせんわい。」
顔をしかめたまま言い放つ梅次。
お産直後の妻は、眼を強く閉じた。
分かっている。
もうこれ以上口を増やすことは無理だと。
それでも男の子であれば、家の働き手として・・・。
「 こんな飢饉の時に育てられるわけがねぇ!
お返し申すしかねぇ。」
天に“お返し”する・・・、つまり間引きすることだ。
妻は覚悟を決めた。
「 ごめんなぁ、ごめんなぁ・・・。
生まれた時が悪かったんや。」
綺麗な着物を着せられた女の子の遺体。
もちろん名前は、ない。
屋敷の一番奥部屋の床下に埋められた。
それが、この地方の間引きの暗黙のルール。
「 ごめんなぁ・・・ほんにごめんなぁ。」
母は泣きながら部屋に人形を飾った。
女の子と同じ、綺麗な服を着た日本人形。
§2 話1
女「 男くん、座敷わらしってさ?」
男「 ん?」
女「 なんか家の守り神扱いされてて怖くないイメージだけどさ?」
男「 うん。」
女「 もともと親に殺された子供なんだよね・・・。」
男「 うん。」
女「 なんで家の守り神なんかになってるんだろ・・・。」
男「 ・・・。」
女「 一番自分を愛してくれるはずの親に殺されちゃうんだよ!?」
男「 ・・・。」
女「 普通ならその恨みや未練は悪霊になってもいい位だと思うんだよね。」
男「 そだな。」
女「 だから私、考えたんだ!」
男「 なにを?」
女「 座敷わらしになる子って、自分が死んだって思ってないんじゃないかって。」
男「 ふー。」
女「 死んだことに気付かない子が座敷わらしになってさ、殺されたことを知ってる子が地縛霊とかになるんじゃないかって・・。」
男「 なんか斬新な意見だな。」
女「 でしょ?でしょ?新説として学会に発表しようかしら。」
男「 でもさ。」
女「 なに?」
男「 座敷わらしの元が殺されたってか、間引きされた子供って話はよく聞くけどさ。」
女「 うん。」
男「 それだったら、7歳~10歳くらいの子供が出てくるの、おかしくね?」
女「 きっと気付いてないから、妖怪になっても成長するのよ。」
男「 それだと、もう年寄りになってるはずだろ?」
女「 ・・・う。
じゃあ、こういう説はどうだろう?」
男「 ・・・とりあえず聞こうか。」
女「 ほら、口減らしのために子供を殺して、その子供の供養までするわけじゃん。」
男「 うん。」
女「 供養のひとつに、子供の霊をなだめるために人形を供えたりしますよね?」
男「 うん。」
女「 その人形に、殺された子供の霊が乗り移ったもの・・・。
それが座敷わらしなんじゃないかしら?」
男「 ・・・。」
女「 人形ってさ、大体10歳前後の子供だよね?」
男「 そだな。」
女「 それだったら説明つくんじゃないかしら?」
男「 まあ、お前にしてはよく考えてるよな。」
女「 えへへ?☆」
男「 ま、確かに間引きされた子供と人形の関係って深いとは聞く。」
女「 うんう。ん」
男「 “こけし”って元々“子消し”つまり子供を殺すって言葉から出てきたっていうし。」
女「 怖いね。」
男「 でもさ。」
女「 なに?」
男「 供える人形ってさ、ほとんど女の子の人形じゃん?」
女「 うんうん。」
男「 子供の霊が人形に乗り移ったとすると、ほとんど女の座敷わらしになっちゃうよな?」
女「 ・・・。」
男「 でも座敷わらしって、男の子が多いイメージだけど・・・。」
女「 男の霊が女の人形に乗り移って何か悪いわけ?」
男「 ・・・何キレてんだよ。」
女「 ・・元の話に戻るけど、なぜ親に殺された子がその家の守り神になるのか!?」
男「 無理やりだな。」
女「 守り神扱いされてるけど、実は守り神でも何でもないってのが私の新説!」
男「 ほう?」
女「 座敷わらしの伝説って地方によって違うし、諸説いろいろあるけどさ。」
男「 うんうん。」
女「 基本的な構図として、座敷わらしが出る家は繁栄して、出なくなると衰退するって形よね?」
男「 うん。」
女「 でもそれって凄くこわくない?」
男「 何が?」
女「 なんか脅されてるような感じがするよね・・・。」
男「 どういうこと?」
女「 だって座敷わらしが出なくなると家が没落するのは目に見えてますよね?」
男「 うん。」
女「 家を守るためには、なにがあっても座敷わらしの機嫌を取り続けないといけない・・。」
男「 ・・・。」
女「 これって凄い無言の脅迫だよね。」
男「 言われて見ればそうだな。」
女「 これは子殺しをした家が存在する限り伝わる祟りみたいなものじゃないかしら・・・。」
男「 怖いね。」
女「 怖い。」
§3 話2
女「 私が座敷わらしを守り神じゃないって思う理由はもうひとつあるんだ。」
男「 なに?」
女「 今はもういないけどさ、サークルの3年先輩のKさんって知ってる?」
男「 会ったことはないけど、病気で大学辞めちゃったらしいな。」
女「 ココだけの話にしてね、その人ね・・・。」
男「 うんうん。」
女「 実は座敷わらしに近いものに憑かれて、気が狂ったって話なんだよ・・。」
男「 眉唾もんだな。」
女「 ホントだって!」
男「 ふーん。」
女「 あっ!信じてないね?」
男「 そもそも“座敷わらしに近いもの”って何だよ?」
女「 まあ別に殺された子供じゃないみたいだから座敷わらしとは違うかもね。」
男「 それってただ気が狂っただけじゃんw。」
女「 まあ聞いてよ。」
男「 じゃあ聞く。」
女「 座敷わらしの3大要件を挙げよ。」
男「 なんだよ、いきなり。」
女「 いいから答えよ。」
男「 ん?今の話の流れで行くと、
1.親に殺される。
2.床下に埋められる。
3.人形で霊をなぐさめる。
・・・かな?」
女「 K先輩はね・・・。」
男「 うんうん。」
女「 頭の中に座敷わらしを生み出しちゃうの。」
男 「は?」
女「 昔K先輩は、死んで人形を抱かされて埋められた女の子をみたのね。」
男「 うん。」
女「 その遺体に恋しちゃった先輩は、それ以来心の中に童女を住まわせちゃったってわけ。」
男「 それのどこが座敷わらしなんだ?」
女「 さっきさ、座敷わらしが住む家は繁栄し、出て行くと衰退するって話したよね?」
男「 うん。」
女「 K先輩の心に住む童女も同じでさ。」
男「 うん。」
女「 心に童女がいるときは幸せな気分になり、童女を見失うと絶望するって感じ。」
男「 ・・・いまいち意味がわかんないな。
それって別に座敷わらし関係なくね?」
女「 そう?」
男「 んー。
なんていうかな。
死体に対する病的な恋愛感情ってだけな気がする・・・。」
女「 でもさ。
K先輩自身が座敷わらしに対する執着をよく口にしてたらしいよ?」
男「 へー。」
女「 んで、座敷わらしで有名な東北のR荘まで泊まりに出かけたんだって。」
男「 ふぅん。」
女「 それ以来大学に出てこなくなって、結局そのまま退学と。」
男「 やっぱり少し関係あるのかな?」
女「 それはわかんないけど、皆、Kは座敷わらしに憑かれたんだ”って思ってるね。」
男「 へぇ。」
女「 そのK先輩の話を聞いてから、『座敷わらしって本当に守り神?』って疑問が生まれてきたんだ。」
男「 確かにそんな話を聞いたら悪霊としか思えないよな。」
女「 でも先輩は凄く幸せそうな顔してたってさ。」
男「 へぇ。」
女「 人間何が幸せで何が不幸なのかって分からないよね・・・。」
男「 そだな。」
女「 ・・・。」
男「 ?」
女「 ・・・オカルトクラブ会員としては、一度座敷わらしに会ってみたいよね?」
男「 正気か?」
男「 何でわざわざ金払ってまで悪霊に会いに行かないといけないんだよw。」
女「 オカルトクラブ会員のセリフとは思えないわね。」
男「 ・・・。」
女「 K先輩の証言をつなぎ合わせると、座敷わらしはこの世のものとも思えない妖艶な童女。」
男「 ・・・。」
女「 会ってみたいでしょ?」
男「 まあ。」
女「 今度の連休、いいよね?」
男「 はい。」
§4 列車
女「 ココで8時12分発のあずさに乗り換えますよ。」
男「 はい。」
女「 ねえ?この前“こけし”の話してくれたじゃない?」
男「 ああ。」
女「 “こけし”は“子消し”につながり、間引きされた子供を意味するって。」
男「 うん。」
女「 私考えてたんだけど・・・。」
男「 うん。」
女「 大人のおもちゃのアレも“こけし”っていうじゃん?」
男「 ・・・。」
女「 何でアレをこけしって言うのかなって思ってたんだけどね。」
男「 ・・・。」
女「 形が似てるからって言うのもあるんだろうけど・・・。」
男「 なんだよ?」
女「 生殖行為が伴わない擬似セックスのための道具ってことで“こけし”なんじゃないかと。」
男「 くわしく。」
女「 つまりさ、元々セックスって子供作るためのものですよね?」
男「 うん。」
女「 でも経済的な理由で育てられなかったりする。
だから間引きしたりしちゃう。」
男「 うん。」
女「 それを防ぐための、射精が伴わない擬似性器を子供が出来ないって意味で“子消し”にしたんじゃないかと。」
男「 まあ、そうかもな。」
女「 相変わらずノリが悪いわね。」
男「 電車の中でする話じゃないかもな。」
女「 ・・・。」
§5 R荘
女将「 いらっしゃいませ。」
女「 予約してた女ですけど。」
女将「 2名様で承っております、こちらへどうぞ。」
女「 はい。」
女将「 ご予約のお部屋は、座敷わらしが出る事で有名なんですよ。」
女「 はい、それ目当てできました。」
女将「 座敷わらしを見た人は幸せになれるという言い伝えがあります。」
女「 はい。」
女将「 はい、こちらのお部屋です、どうぞごゆっくり。」
女「 はい・・・って、うわぁぁぁ。」
男「 これは・・・、すごいな。」
女「 こんな日本人形がびっしり並んでる部屋で寝るの?」
男「 人形の目が全部部屋の中央に向いているってのもまた怖い。」
女「 あ、ほんとだ。」
男「 ここに座敷わらしが出るのかもな。」
女「 これじゃあ幽霊も出るはずだわw。」
男「 シャーマンの降霊の儀式に立ち会わされてるような気分だ。」
女「 ほんとね。」
男「 うん。」
§6 夜
女「 おやすみ。」
男「 おやすみ。」
女「 ねぇ?」
男「 なんだ?」
女「 おしっこしたいんだけど・・、・ついてきて。」
男「 一人で行って来い、俺は眠い。」
女「 あほっ。」
“ ガタン。”
男「 ・・・いい年こいて何言ってんだ。」
男「 ん?」
男「 女?戻ってきたのか?」
男「 ・・・。」
男「 うゎぁぁぁぁぁぁぁ。」
§7 朝
女「 おはよ。」
男「 ・・おはよ。」
女「 相変わらず朝に弱いわねぇ。」
男「 そんなんじゃねーよ。」
女「 結局座敷わらし出なかったねぇ。」
男「 ・・・。」
女「 男くん?」
男「 ・・・ん?」
女「 なんか疲れた顔してるねぇ?さては怖くて眠れなかったかw。」
男「 別に。なんか肩が重い。」
女「 ちょっと朝風呂行ってくる~男くんはお風呂行かないの?」
男「 ん、俺はいい。」
女「 じゃあね。」
§8 女将
男「 女将さん。」
女将「 はい?」
男「 何で座敷わらしって10歳前後の女の子なんですか?」
女将「 見えました?」
男「 はい。」
女将「 よかったですね。」
男「 はい。
元々座敷わらしって間引きされた乳児ですよね?
何であんな姿なんですか?」
女将「 地方によって違うかも知れませんけど、私が知ってる話では・・・。」
男「 はい。」
女将「 昔、天候異常が続いて飢饉になろうかというときにですね。」
男「 はい。」
女将「 飢饉を天の怒りと捉えて、その怒りを治めるためにいけにえを差し出したそうです。」
男「 それが。」
女将「 はい、それが座敷わらし。」
男「 ・・・。」
女将「 初潮前の女の子を断食させて、綺麗な着物を着せたあと殺すそうです。」
男「 ・・・。」
女将「 そしてその遺体に、人形を抱かせて別当の家の奥座敷に埋めるという習慣がありました。」
男「 はぁ。」
女将「 この旅館も元々別当家の屋敷を改築して出来たものですから。
可愛かったでしょ?」
男「 見たことないくらい可愛かったです。」
女将「 天の怒りを治めるためのいけにえですから、かなりの上玉が選ばれたそうです。」
男「 ・・ああ。」
女将「 一目見て、取り憑かれる男性のお客さんも多いですよ。」
男「 ・・・。」
女将「 まあ、取り憑かれるって言うよりは、その姿に恋して童女の幻影を追い続けるって感じでしょうか。」
男「 ・・・。」
女将「 そういうお客様は何度でも、座敷わらしに会いに当旅館に見えられます。」
男「 ・・・それで、“座敷わらしが棲みつく屋敷は繁栄する”と。」
女将「 うちの場合はそうかもしれませんね、おかげさまで。」
男「 ・・・次にあの部屋が空くのって、いつですか?」
女将「 おかげさまで人気の部屋ですからね、次は3ヵ月後ですね。」
男「 予約をお願いしたいんですが。」
女将「 ありがとうございます。」
§9 列車
男「 ・・・と女将さんがいうには座敷わらしの正体はこういうことらしい。」
女「 ふーん。
それだと座敷わらしが童女の姿してるのも頷けるわね。」
男「 だな。」
女「 でもさ~ちょっと疑問があるんだけど。」
男「 なんだ?」
女「 地方によってそういうケースがあるのは、まあ分かる。」
男「 うん。」
女「 でもさ、基本的には口減らしのために生まれてきた子を殺すわけでしょ?」
男「 うん。」
女「 そういう座敷わらしも、やはり10歳前後の子供の姿してるわけじゃない?」
男「 うんうん。」
女「 それについてはどういう解釈をしたらいいんだろ?」
男「 俺、それについてずっと考えてたんだけど・・。・」
女「 うん。」
男「 ちょっと無理な解釈かも知れないけど・・・。」
女「 うんうん。」
男「 いけにえっていうのはもちろん宗教的な意味合いが強いんだけど、絶対その背後にはもっと現実的な意味があるはずなんだ。
さっき女将さんは“初潮前の綺麗な童女”を殺していけにえにするって言ってたけど、それの本当の意味ってのは現実に生まれてきた子を間引きするんじゃなくて、近い将来生まれてくるであろう子供の数を減らすって意味がないだろうか?
綺麗な童女が初潮を迎えて女になったとき、当然村中の男から狙われるよな?
そして子供を孕む。
その将来の危険を元から断つ、その象徴だったんじゃないかと・・・。」
女「 ・・・。」
男「 口減らしのために間引きするって言うとどうしても乳児殺しのイメージが強いよな?」
女「 ・・・。」
男「 昔は、生まれてから名前が付いてないうちは人間じゃないっていう観念が強かったらしくてさ。」
女「 うん。」
男「 子殺しとして、つまり殺人として認識されてなかったと聞いたことがある。」
女「 うん。」
男「 つまり!実際は初潮前の童女を殺してたんだけど、それを“間引き”と呼ぶことで、乳児殺しのイメージへとすり替えを行ったんじゃないかな・・・。」
女「 ・・・。」
男「 まだ童女殺しより、乳児殺しの方が社会的に認められていたわけだからね。」
女「 要するに、子供が出来る身体になる前の童女を殺すことで出産調整を行っていたわけね?」
男「 そう!」
女「 そしてその殺された童女が、座敷わらしになる、か・・。」
男「 そう!」
女「 ・・・なんか薄ら寒い話よね。」
男「 綺麗な童女が女になる前に殺されるんだ・・・。」
女「 うん。」
男「 これって、『自分の男を取られてたまるか』という村の女達の嫉妬が入ってるように思えるんだよな。」
女「 ・・・。」
男「 10歳前後といえば、あどけない顔に少しずつ大人びた表情が混じってくる一番魅惑的な年齢だ。
身体のラインも、少しずつ曲線を帯びてきて恥じらいも生じてくる。
未完成の美っていうのかなぁ・・・。
大人では絶対にかもし出せない美しさがあるよね。」
女「 ・・・。」
男「 そんな童女達が、日に日に魅力を増していく・・・。
しかしそんな自分の魅力に気付かない童女は、まるで幼女のように無防備なわけだ。」
女「 ・・・。」
男「 そんな童女たちに男達の目が行かないわけがない。」
女「 ・・・。」
男「 自分には無い魅力を持つ童女に嫉妬した、村の女達。
『男をあんなしょんべん臭いガキに取られてたまるか』ということで、
いけにえを名目に、村一番の美しい童女を見せしめとして殺す・・・。」
女「 ・・・。」
女「 ・・・男くん。」
男「 ん?」
女「 今の男くんってさぁ〜。」
男「 なんだよ。」
女「 K先輩が少しずつ狂っていった話に相似してる。」
男「 ・・・。」
女「 見たんでしょ?」
男「 ・・・ああ。」
女「 どうだったの?」
男「 形が、ないんだ・・・。」
女「 は?」
男「 実体が無かったんだよ。」
女「 意味わかんない。それって夢見てただけじゃないの?」
男「 なんていうか・・・この前、K先輩の話してくれたときさ、『心の中に童女が棲み付く』って言ってたよな?」
女「 うん。」
男「 視覚的には捕らえられないだけで、イメージとして頭の中に流れ込んでくるんだよ。」
女「 ・・・。」
男「 真っ赤な着物を着た、おかっぱの童女・・・。
その子が無邪気に俺の身体にまとわり付くイメージ。
泣きながら殺され、床下に埋められるイメージ。
真っ暗な床下で、寂しくて・悲しくて、泣きながら日本人形をギュッと抱きしめるイメージ。」
女「 ・・・。」
男「 でも唯一五感で感じ取れたのは。」
女「 ?」
男「 死臭。」
車掌『 まもなく上野〜上野に着きます。
お乗換えのお客様にご案内いたします・・・。』
女「 ・・・。」
男「 死臭っていっても。」
女「 もういい。」
男「 お前が話せって言ったんだろ?」
女「 ・・・なんか怖いよ。」
男「 こわくないよ。今は俺がついてるんだから・・。」
女「 はぁ?」
男「 暗いところでずっと一人で寂しかったんだな。」
女「 ・・。」
男「 ・・・。」
女「 ちゃんと明日、学校来なさいよ?」
男「 ・・。・」
女「 朝、電話するからね?」
男「 ・・・。」
§10 終
“ プルルルルル・・・、プルルルルルル・・・、プルルルルルル・・・。”
男「 ・・・・・・。」
“ プルルルルル・・・、プルルルルルル・・・、プルルルルルル・・・。”
男「 ・・・・・・。」
“ プルルルルル・・、ツーッツーッツーッ・・・。”
男「 だから、童女ってのは皆、座敷わらし性を持ってるんだよ。
“心の中に棲息し、幸福を与える”という一点においてさ。」
男「 微かな腐臭と共に現れる童女のイメージ・・・。
彼女達は一番輝いている時に、嫉妬に狂った女達に殺された。」
男「 でもさ、それって彼女達にとっては幸せだったんじゃないかと思うんだ。」
男「 一番美しい姿で時が止まり、その姿を永遠に保ったまま男達の幻想の中で行き続けるんだから。
永遠に、さ。」
男「 微かに腐敗して、柔らかさを増したその身体に。」
男「 死をもってしても変わらない、童女独特の、硬い、表情。」
男「 その絶妙なバランスが・・・。」
“ ドンドンドンドンドンドン!ピンポーン!ピンポーン!”
女「 男くん!?どうしたの?男くーん!!」
男「 彼女達の美しさを芸術的なレベルにまで高めてるんだろうな・・・。」
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