【オールソーラーシステム完結論 37】
● ハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体の衝撃
日刊工業新聞で色素増感型太陽電池の商品開発の記事が掲載されている。リコーのエネルギーハーベステ
ィング(環境発電)であり、色素増感太陽電池は大きな電力(出力)を発電できないが、未利用の室内光
を電力に変える。リコーの色素増感太陽電池の1平方センチメートル当たりの出力は13・6マイクロワ
ット。電卓やソーラー時計に使う非結晶シリコン太陽電池より2倍多い。リコーは電解質をコピー機の有
機感光体材料と類似した有機p型半導体と固体添加剤に置き換えた。液体が原因で色素がはがれなくなり、
耐久性が向上。従来の液体型と比べ1平方センチメートル当たりの出力を60%高めたというもの。環境
発電というキーワードでは、同じく、国際先端技術総合研究所のナノ二酸化ケイ素の人工水晶を用いた太
陽光なくても発電できる光発電素子で2013年4月に公表されたものを日刊工業新聞は12月に再掲載して
いる。
色素増感型は、(1)製造コストの安さや(2)カーラー表示できる意匠性、(3)結晶シリコン系(無
機)は直射光だけでなく散乱光も取り込めるという優れた特徴があるものの(1)変換効率の低さ、(2)
電解溶液使用による安全リスク、(3)セルの堅牢性・耐久性のリスクからその商品化が遅延していた。
そんな折り、昨年8月1日、山田泰裕 化学研究所特定准教授らのグループが 新しい太陽電池材料として
近年活発な研究が行われているハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbI3)
中の電子の振る舞いを解明したと公表。無尽蔵の太陽光エネルギーを利用する太陽電池は、最も重要な再
生可能エネルギー創出技術の一つとして、重要性が増しているが、太陽光エネルギーをさらに有効に利用
普及には、安価で高効率な太陽電池の実現に向け開発競争が世界中で活発している。現在、最も普及が進
んでいるシリコン太陽電池の場合、太陽光エネルギーの電気エネルギーへの変換効率はおよそ25%に達し
さらなる太陽電池の普及には、低コスト化・高効率化が求められていた。このハライド系有機-無機ペロ
ブスカイト半導体(CH3NH3PbI3)は、2009年に初めて太陽電池材料として報告された材料、基板やフィ
ルムに「塗る」ことで作製できる。これを光吸収材料に用いたペロブスカイト太陽電池は「印刷技術」に
より作製でき、従来の太陽電池に比べ、製造コストを大幅に下げることが可能な新たな太陽電池として世
界中で急速に注目を集める。2012年以降、その光電変換効率は驚異的な速さで改善が進み、一躍、次世代
太陽電池研究の主役の座に躍り出る。しかしながら、急速に進む応用研究の一方で、高い変換効率をもた
らす基礎的な物性の理解が不明であった。特に、「光によって半導体中に形成される電子の振る舞い」に
ついて、発光や光吸収の時間変化を追跡することで、ペロブスカイト半導体の薄膜中で光によって生成し
た電子の状態解明に成功。その結果、これまでは有機太陽電池材料のように電子と正孔が励起子と呼ばれ
る束縛状態を形成すると考えられていたが、実際には電子と正孔はそれぞれ自由に運動していることを初
めて突き止める。
● マーティングリーン教授も驚嘆
このことを、内田聡東大先端科学技術研究センタ特任准教授は、「不定期日記」(2014.12.31)で以下の
ように語っている。
ゲーム・チェンジングという言葉が正に当てはまるような、ペロブスカイト太陽電池が大躍進の1年
でした。太陽電池の権威であるマーティングリーン教授が、結晶シリコン一筋40年の大先生ですが、
わざわざ国際会議でペロブスカイト太陽電池の講演をしなければならないくらい、その波及効果は大
きなインパクトを持って迎えられました。その一番の要因は急激な効率の上昇にあります。即ち、昨
年5月のHOPV2013の発表でη=15%(by Prof. Graetzel)という衝撃的なアナウンスがされてから、現
在の最高値であるη=20.1%の報告(by Dr.Seok)まで僅か18ヶ月。3.3%/Yearの伸びを示しました。
電解液を用いた2009年の報告から数えても、この5年7ヶ月の間に平均2.9%/Yearで伸び続けている
計算になります。通常、太陽電池の進捗は種類によらず大凡 0.3%/Year程度ですので、実に10倍も
の速さで効率が上がっていることになります。そしてこの間、遂に既存の太陽光発電の一部を支える
アモルファス太陽電池の最高効率を上回り、CIGS とほぼ肩を並べる存在にまで到達致しました。つ
い数年前まで、有機系太陽電池がここまで前進するというのは誰も想像できなかったことであります。
今にして思えば、全てが薄氷を踏む思いでありました。本人の尋常じゃない努力はもちろんのこと、
Firstプロジェクトでドライルームを設置していたのも幸いでした。とかく再現性に苦慮しがちなペロ
ブスカイトですが、湿度の影響を排除できたことで研究のスピードを格段に加速することができまし
た。操作性の悪いグローブボックスでちまちまやっていたのでは、とても追いつかなかったと思いま
す。また、これに並行して情報収集も精力的に行いました。最初から予定していたわけではないので
すが、私、今年の国際会議参加による海外出張は10件という、いつに無いハイペースでした。写真に
納めたスライドはSSSC(Oxford)だけでも1500枚。全部合わせれば1万枚は越えると思います。かつ、
これらを全て後で精査しています。
このように考えていくと、初めて色素増感型太陽電池の開発に手を染めから大凡8年経過して、ある意味
この研究を選択したことは幸運だったと思える心境にある。ただし、(1)鉛を使うという安全上のリス
ク(代替として錫など考えられている)、(2)カラー表示という意匠性の夢が絶たれるという問題もあ
る。しかし、これも考え方だ、化合物半導体を構成するヒ素やガリウム、インジウムなどもその意味では
鉛と同様な安全上のリスクを抱えているから、廃棄物のリサイクル、事故時の対応など是正工学を充実す
ればリスクを抑制できるだろう。また、カラー意匠性などは表面をカラーフォルム層を被覆すれば解決で
きるからコストとのトレード・オフできると考えられる。当初の色素増感型とは異なるが、今年から試作
品が市場投入されてくるだろう。
太陽電池だけではない。『デジタル革命!大爆破』 (2014.12.25)で掲載した次世代金属空気二次電池
にも応用展開――北海道大学触媒化学研究センターの竹口竜弥准教授、物質・材料研究機構の魚崎浩平フ
ェローらの研究グループが、次世代二次電池の材料として期待されるエネルギー密度の高い「金属・空気
二次電池」に使用する高性能空気触媒の開発に成功。二次電池は電気自動車などで需要が一段と高まって
おり、今回の研究成果によって高性能化に役立つと期待される。従来技術による金属・空気二次電池では、
空気極(空気中の酸素を用いる正極)の放電・充電反応が遅く、大きなエネルギーロスが生じていた。研
究グループが、新たに「ペロブスカイト」という構造を持つ3層の酸化物を開発。空気触媒として用いた
ところ、エネルギーロスがほとんど生じないことを確認――されていくものと期待できる。
尚、プラグインハイブリッド電気自動車,電気自動車用電源として,リチウムイオン電池が使われていが,
本格的普及に向けて航続距離を延長させるためにはエネルギー密度の高い次世代二次電池の開発が望まれ
ている。有望な次世代二次電池の一つである金属・空気電池の理論エネルギー密度は,現在実用化されて
いるリチウムイオン電池の200 Wh/kg をはるかに凌ぎ,リチウム・空気電池では11,140Wh/kg,アルミニ
ウム・空気電池では8,100 Wh/kg で,ほぼガソリンのエネルギー密度に匹敵する。
今夜は、色素増感型太陽電池→ハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体→ペロブスカ
イト構造電極などを俯瞰したが、シリコン結晶系やシリコン量子ドット系などの(下図参照)の開発も地
道にしかし着実になされてきている。時代は確実に原子力発電に象徴される原子力系からバイオミミック
リ系あるいはデジタル系物理学にに移行していることを実感している。今年もワクワクすること間違いな
い! ^^;。
さて、大晦日は珍しくNHKの紅白歌合戦を熱心に観ていた。大道具や美術も大きく変わり、4K、8Kのデジタル大
道具-特殊映像効果技術-の時代だ。