くらぶとろぴか

きもちはいつもシパダンの海の中。シパダンとコタキナバル旅の備忘録、ときどき弾丸、そしてホームワークアウトおたく。

シパダンのコンディション

2006-09-11 19:23:32 |  ダイビング

きょうの「New Sabah Times」は、見開き2面をさいて、シパダンのリーフの現況をレポートしている。今年の5月に起きた、シパダンへの作業船座礁事件後の、被害エリアの状況をレポートしたものだ。


2006年5月13日、私たちのようなビジターと、シパダン常駐の職員(現在島を管理しているサバ・パークスおよび島を警備するセキュリティたち)のための、施設建築用資材を積んで、シパダンに着岸した作業船が、ドロップ・オフのリーフに乗りあげてしまった。作業船は満潮時に到着し、資材をおろしたら、潮が変わる前に引き上げる予定だったが、不幸にも暴風による波がたち、船体が揺れたことで、建築資材の、ピンポン玉大の大量の砂利が海中にばらまかれ、船底がリーフをえぐり、サンゴが破壊されたというものだ。

この出来事を、目撃者であるイタリア人水中写真家夫妻が、自らのブログに投稿したことで、事件は世界中に広まり、シパダンを知る人々に大きな衝撃を与えた。このイタリア人夫妻は、細々と(失礼。でも、あまりメジャーではないと思う。)写真集や、シパダンのマクロライフの図鑑も出している、シパダンには精通したおふたりだ。彼らのブログの文面は、あたかもシパダンのサンゴは壊滅的と思える怒りと悲しみに満ちた表現で、それを裏付けるように、真っ白な水中世界の写真がのっていた。そして、事件発生当初は、現地の新聞には連日、マレーシアの各大臣たちが建築中止をうたい、状況によっては、シパダンをクローズするといった談話までが報道されていた。ところが、数日たつと、報道内容は、当初の情報は過大視されたもので、実際の被害はそんなにひどいものではない、という楽観的なものにかわってゆき、その後、さらなるニュースは聞かなくなっていた。このように、リゾートオペレータが撤退させられたあと、いくらもたたないうちに、建築が行われようとしたという既成事実からも、容易に想像できるが、施設建築計画にしても、事件後の報道が控えられたことについても、ある強い力が動いたとは、まことしやかに噂はされている。

ところで先週、私がシパダンで潜った時には、ドロップオフに潜る機会はまったくなかったので、そのエリアをこの目で確かめることはできず、どうなっているんだろうと、とても気にはなっていたが、今朝のDaily Expressに、その答えはあった。

きょうの記事は、サバ州観光局が、第三者としての中立的立場にある、DEMA(DIVING EQUIPMENT & MARKETING ASSOCIATION)に、事件後の実態の調査と、それについての客観的なレポートの発表を要請し、それを受けて、DEMAの会長であるAl Hornsby氏が、7月14~16日に行った調査結果をまとめたものだ。

Hornsby氏は、リーフの研究者ではなく、シパダンに長年潜ってきた1ダイバーとしての視点で、被害の程度を判定し、今シパダンに行くと、ダイバーは、被害が及んだ場所で何を見るのか、それは、ダイビングの質に影響を与えるものなのかを、ドロップ・オフの地形と水底の様子の説明をメインに、3枚の写真を添えてレポートしている。レポートによれば、ダメージを受けた範囲は、おおよそ横約24m×縦約30mということだ。

1枚目の写真では、東寄り(旧SDC側)の水面に、何か所も、こんもりとした堆積物が頭を出しており、その堆積物は、砂州のように細長く続いている場所もある。これは、作業船によってえぐられた水底部分が積もったもので、干潮時以外は、沈んでいてみえないらしい。また、干潮時には、足首程度の水深にしかならない場所のため、堆積物にはほとんど生きたサンゴはないそうだ。

2枚目の写真は、水深4~4.5mのリーフのふちで、生きたサンゴの上をカメが泳ぐ、見慣れたシパダンの光景だった。4mより深く潜れば、被害を受けたエリアを泳いでも、ダメージに気がつくことはないそうだ。その位置を、そのまま水深18mまで降りると、棚が突き出ているところにあたり、そこには、事件発生時には砂利が降りつもったそうだが、砂利はすぐに取り除かれ、水中環境にダメージを与えることはなかったそうだ。

3枚目の写真は、棚の上に石灰岩やひっくり返ったサンゴが写っていて、ダメージの形跡がわかるものだった。ただ、その写真の中にも、生きたサンゴが写っている。ダメージを受けたエリアの水底は、もともと、ガレ場、石灰岩、生きたサンゴが点在していた場所であり、また、被害の中心にしても、そこにあるサンゴが完全に破壊されたわけではなく、かつ、ダメージの度合いも均一ではないため、どこからどこまでが実際に被害を受けた場所で、どこからどこまでがそうでないのかを明確にするのは困難、との見解だ。

そして、レポートの結びでは、
?事件発生当初の写真では、リーフが広域にわたって砂利をかぶっていたために、壊滅的に見えていたが、砂利が取り除かれた今では、様子がまったく変わっていて、被害を受けたエリアとそうでないエリアの明確な境界がないこと
?ダイバーやシュノーケラーが、被害を受けたエリアを泳いでも、ダメージに気づくことはまずなく、ここで座礁事件があったとわかるような目だった形跡がほとんど残っていないこと
?作業船が停泊したタイミングと場所の選択が、幸いにもよかったため、被害は最小限ですんだ
と締めくくっていた。

以上がレポートの内容。

ということは、見た目には、目だったダメージは、ほとんどないということだ。事件当初は、タートル・カバーンがくずれるといわんばかりの悲観的な第一報だったので、あらためて被害が小さかったことにほっとした。それでも、風が吹こうが、波がおころうが、たとえ被害が最小限であろうが、こういう人災は、二度と起こりませんように。

ところで、今回のシパダンで、こんな人災を目撃した。
スタッグホーン・クレストで、マクロが得意なガイドがゲストを一人ずつ呼んで、エビをみせていた。その時、中性浮力のとれない日本人女性が、不用意にカベのくぼみに手をついたものだから、そこに積もっていた砂や小石が、ものすごい勢いでなだれを起こし、白煙をたなびかせ、深海へと崩れ落ちていった。こういうのって、少なからず生態系になんらかの影響をおよぼすだろう。彼女は、その前のダイビングでも、潜降開始よりぷちパニックで、バディであるはずのダンナは、まったくヘルプしないので、ガイドが手をひいて潜っていたくらいだ。

自然保護のために、ダイバーの人数制限が打ち出されているが、力量不足の人を制限する方が、いいんじゃないか、と思う。安全面でもね。