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ぽかぽか春庭「閼伽棚」

2013-03-12 00:00:01 | エッセイ、コラム
2013/03/12
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>新語旧語(6)閼伽棚

 閼伽棚(あかだな)とは、仏に供える水などを載せる棚のこと。
 子どもの頃、法事の折りになど「あかだな」ということばを聞くと、青棚や白棚やもあるのかと思ったり、「垢棚」かと思ったりしました。なんで尊い仏様にわざわざ垢のついたものをまつるのかと、子供心には不思議でした。

 高校の古典の時間だったかに、閼伽棚のアカとは「仏に供える水のことである」と、習って、へー、アカは水なのかと、よくわからないままにそれで終わりにしていました。

 津軽三味線と三線の演奏を聞いたとき、その前に能の囃子方をしていらっしゃる槻宅聡さんの能管演奏と謡の解説もありました。槻宅聡は、東京外国語大学のご出身ということで、能の詞章の解説をしながら「閼伽棚のアカは、サンスクリット語ですね。サンスクリットもラテン語もインドヨーロッパ語の同系語ですから、ラテン語のアクアと同類の語です」と、解説してくださいました。

 「アクア=水」という語は、アクアラング(潜水用具)、アクアリウム(水槽、水族館)など、水にかかわるなじみの語でしたが、これまでアクアと閼伽を結びつけて考えたことがありませんでした。
 サンスクリット語を知っている人にとってはなんでもないことなのでしょうが、アクア=水、アカ=水と習っても、アクア=アカと思いつかなかった。論理力がないので、A=B、A=C ゆえにB=Cという三段論法が応用できずにいました。「そ、そうなんだ!B=Cだよ」と、ちょっとうれしい「発見」です。

 「旦那」の語源が、サンスクリット語のダーナ=寄進する者、であり、中国に入ると、旦那寺「寄進をして先祖の菩提を託す寺=寄進をするべき寺」などの旦那になり、日本へ伝わって江戸時代には、寺請制度がとられ,すべての士農工商とも旦那寺(檀那寺)をもたねばならなくなりました。また「生活の糧をほどこす人=ダンナ様」になって、御店者からすると店のご主人はダンナ様。妻から見て給金を家に持ってくる人は旦那様。
 サンスクリット語が西へすすむと、英語のドナーとなり、外来語ドナーは、「臓器移植医療において、臓器を提供する人、寄進する人」の意味になった、という梵語話のほうは、旦那=ドナーというのを自分で気づいたので、うれしくて、何度も同じ話を書きました。

 卒塔婆はサンスクリット語のストゥーパ(塔)。貝多羅葉(ばいたらよう)とは、サンスクリット語で「木の葉」の意味を持つパットラpattra=古代インドで植物の葉が筆記媒体として用いられた)
 ほかにも、三昧ざんまい 、娑婆しゃば、 舎利しゃり、 刹那せつな 荼毘だび、南無なむ、奈落ならく、涅槃ねはん、般若はんにゃ、比丘尼びくに、菩薩ぼさつ、菩提ぼだい、瑠璃るり、など仏教関係ほか、サンスクリット語由来の語は日常生活に多く使われています。

 閼伽棚にそっと水をお供えするひととき。
 亡き人をしのび、在りし日の面影を辿る。
 68年前の3月10日、東京で身近な人を燃え上がる火のなかに失ったという人はもう少なくなってきたのかも知れませんが、東京に住まわせていただいている者として、1945年の劫火に焼かれた人々の御霊に手を合わせます。3月11日に身近な人を奪われた人は、どんな思いで3回忌のご供養をなさったでしょうか。私も幾多の御霊に手を合わせます。
 
 命は残されても、故郷を奪われ地域の絆を分断されてしまった人も多いでしょうに、その方々も「景気をよくしてもっとお金を消費する世になるためには、原発再稼働が必要だ」という考え方に賛成しているのでしょうか。

 私には、経済の仕組みの難しいことはわからないことばかりです。私はただ、祈ります。この緑の国土を美しいまま残すためには、これ以上、目には見えないセシウムやストロンチウムの汚染の危険を負わせてはいけないと、ひたすら祈ります。

 政権担当者は「安全が確認できたら再稼働」と言っています。同じ口、同じ政党が、「日本の原発は絶対安全だから、台風が来ようと地震が来ようと絶対に安全」と言いつのってきたのではないですか。その口の後始末もしないうちに、また「絶対安全」神話の復活ですか。

 私は閼伽棚にそっとに水を供え、水に押し流された人の魂も、火に追われて隅田川や荒川に飛び込んだという人の魂も、一瞬の原子の火に焼かれて水を欲しがりつつ亡くなったという人々の御霊も、どうそ安かれと祈るのみ。
 あなた方の愛した土地が再び原子の火に焼かれることのないように、と。
 武器輸出を容認し、死の商人たちが大もうけするのを政府は応援するそうです。世界が戦争でいっぱいになれば、儲かって大喜びの大富豪も増えるのでしょうね。そうなれば政治献金も増えて政治家も大喜び。

 私は私の分野でささやかに生きていくこと、これをまっとうしていくのみ。私のフィールドは「ことば」です。ことばをさがし、ことばを追って、人々の命の問題を考え続けて行きたいと思います。
 閼伽棚にそっと水を供えながら。

<おわり>
コメント (2)
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