2013/06/15
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>ことばの知恵の輪・色の世界(8)カタカナ色彩名詞-ピンク色の研究
色彩名詞、最後はカタカナの色名について。
多くの色彩名詞和語が「死語」になりつつあるかわりに、ワインレッドだのサーモンピンク、スカイブルーなどが流行歌にも登場する。色彩名詞カタカナ語が繁殖しつつあります。
ファッションの世界では、より新鮮な語感を持つことばが多くつかわれますから、服飾表現ではこれから先、ますますカタカナ語が多くなるでしょう。
現在、JIS基準で用いられているカタカナ色名のうち、私にはどんな色なのか思い浮かばなかったカタカナ色名をあげます。
バーガンディー、ボルドー、マルーン、テラコッタ、バーントシェンナ、ローシェンナ、タン、エクルベイジュ、バフ、アンバー、バーントアンバー、ジョンブリアン、レグホーン、ウィスタリア、マゼンタなど。
モーブ色は、林芙美子「放浪記」に「モーブ色の着物を着て」というような記述があって、どんな色か調べてわかったのでした。「灰色がかった青みの強い紫色」だそうで、おふみさんは、ずいぶんとハイカラな色の着物を着て、モダン都市東京を歩いていたのでした。
和語の色彩名詞だと、たとえば、「千歳緑(ちとせみどり)」なんて聞くと、今まで知らなかった色でもなんとなくイメージがわくものもあるし、新橋色なんて、どんな色なのか、色見本を見るまでわからないものもあります。
カタカナ色名でも、色を言われても検討がつかないものもあるし、想像できる色もあります。オーキッドは蘭の意味だとわかって色が想像できるようになりました。タンの色というのは、牛タン tongueのことかと想像したのですが、なめし革tanのことでした。
ただし、それそれの色にまつわるイメージは人それぞれでしょうね。
たとえば、「セピア色の青春」なんてきくと、過ぎ去った日々が色あせた写真の中に残されている、という雰囲気がします。
そういえば、先日見たシャーロックホームズのリメイク作品、「シャーロック」では、『緋色の研究 A Study in Scarlet)』は、「A Study in Pink」というタイトルで翻案されていたので、日本語タイトルもそのまま「ピンク色の研究」
ピンク色の研究っていうと、いったい何を研究するのやら、という語感が日本語につきまといます。
「ピンク映画」というのは、どんな内容の映画を想像しますか?駅前で「ピンクちらし」を配られた、といえば、どんな内容のちらしでしょうか。イメージできない方、清廉潔白な人生をおすごしです。
オレンジ色のオレンジが、果物であるように、ピンク色のピンクとは、英語辞書によれば、語義のひとつは、「なでしこ」「石竹の花」のこと。(今回引いたのは、ライトハウス1995)
花の名がもとになって、「なでしこ色」「せきちく色」という色名になった日本語と同じ発想です。そして、英語で「ピンク映画」を表すのは、「ブルーフィルム blue film」です。「ピンクムービーpink movie」と言っても意味が伝わりません。
もとは「なでしこの色」であった「ピンク」がどうして「性的な意味合い」を含むほうへと意味拡大されたのか。ピンクが日本語の「桃色」の代用にされたからです。
和語の「桃色」には、「男女間のまじめさを欠く交渉を言う語(例語)桃色遊技」(『岩波国語辞典4版』)などという意味合いがもともと含まれていたのです。
果物の桃は、桃太郎がその中から誕生したように、古来「尻」の形の象徴であり、性的横溢を含む生きて行くエネルギーの象徴でした。したがって、「性的な放縦」がその「桃」の意味に含まれるのは、必定でありました。桃色も当然、そういう意味に解されます。
「ピンク」は、「桃色」の「性的な意味合い」を引き継いだのです。ピンクチラシを駅前で配られると気恥ずかしいのは、ピンクの罪じゃありません。
色っぽい笑顔をふりまく美女の写真が並べられて「業界一安い!」なんて惹句のあるチラシを受け取ったら、堂々とながめて、「これは、なでしこたちの笑顔なのだ」と、とくとと見入ってください。
私には「もっと米軍に活用して欲しい」などとは決して言いたくないですが。
会田誠の傑作「鶯台図」
鶯谷に張られていたピンクチラシを集めて桜満開の図にコラージュし作品です。(部分)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/1b/e4b6fc000b6045467bb7d2722988a545.jpg)
撮影禁止のところをこっそり撮って拡大しているので、ちょっとボケて撮れていますが、この惚け具合が興味をそそるかも。
もっとはっきり見たい人は、鶯谷駅前でチラシを集めてください。
以上、「ピンク色の研究」でした。
漢字「色」のもとの形は、後背位の交わり。
「色即是空」の「色シキ」は「この世の万物」
そして、「いろ」は、さまざまないろあい、色彩。「色好み」は情交を好むこと。
「いろいろ」は、さまざまな、あれこれの。
レインボーカラーは「どんな色もみんなの色」
世界に色々な国があり、いろいろな人がいて、いろいろな好みがある。
「いろいろな」という和語が生き残っていきますように。
次回から会田誠展について
<おわり>
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>ことばの知恵の輪・色の世界(8)カタカナ色彩名詞-ピンク色の研究
色彩名詞、最後はカタカナの色名について。
多くの色彩名詞和語が「死語」になりつつあるかわりに、ワインレッドだのサーモンピンク、スカイブルーなどが流行歌にも登場する。色彩名詞カタカナ語が繁殖しつつあります。
ファッションの世界では、より新鮮な語感を持つことばが多くつかわれますから、服飾表現ではこれから先、ますますカタカナ語が多くなるでしょう。
現在、JIS基準で用いられているカタカナ色名のうち、私にはどんな色なのか思い浮かばなかったカタカナ色名をあげます。
バーガンディー、ボルドー、マルーン、テラコッタ、バーントシェンナ、ローシェンナ、タン、エクルベイジュ、バフ、アンバー、バーントアンバー、ジョンブリアン、レグホーン、ウィスタリア、マゼンタなど。
モーブ色は、林芙美子「放浪記」に「モーブ色の着物を着て」というような記述があって、どんな色か調べてわかったのでした。「灰色がかった青みの強い紫色」だそうで、おふみさんは、ずいぶんとハイカラな色の着物を着て、モダン都市東京を歩いていたのでした。
和語の色彩名詞だと、たとえば、「千歳緑(ちとせみどり)」なんて聞くと、今まで知らなかった色でもなんとなくイメージがわくものもあるし、新橋色なんて、どんな色なのか、色見本を見るまでわからないものもあります。
カタカナ色名でも、色を言われても検討がつかないものもあるし、想像できる色もあります。オーキッドは蘭の意味だとわかって色が想像できるようになりました。タンの色というのは、牛タン tongueのことかと想像したのですが、なめし革tanのことでした。
ただし、それそれの色にまつわるイメージは人それぞれでしょうね。
たとえば、「セピア色の青春」なんてきくと、過ぎ去った日々が色あせた写真の中に残されている、という雰囲気がします。
そういえば、先日見たシャーロックホームズのリメイク作品、「シャーロック」では、『緋色の研究 A Study in Scarlet)』は、「A Study in Pink」というタイトルで翻案されていたので、日本語タイトルもそのまま「ピンク色の研究」
ピンク色の研究っていうと、いったい何を研究するのやら、という語感が日本語につきまといます。
「ピンク映画」というのは、どんな内容の映画を想像しますか?駅前で「ピンクちらし」を配られた、といえば、どんな内容のちらしでしょうか。イメージできない方、清廉潔白な人生をおすごしです。
オレンジ色のオレンジが、果物であるように、ピンク色のピンクとは、英語辞書によれば、語義のひとつは、「なでしこ」「石竹の花」のこと。(今回引いたのは、ライトハウス1995)
花の名がもとになって、「なでしこ色」「せきちく色」という色名になった日本語と同じ発想です。そして、英語で「ピンク映画」を表すのは、「ブルーフィルム blue film」です。「ピンクムービーpink movie」と言っても意味が伝わりません。
もとは「なでしこの色」であった「ピンク」がどうして「性的な意味合い」を含むほうへと意味拡大されたのか。ピンクが日本語の「桃色」の代用にされたからです。
和語の「桃色」には、「男女間のまじめさを欠く交渉を言う語(例語)桃色遊技」(『岩波国語辞典4版』)などという意味合いがもともと含まれていたのです。
果物の桃は、桃太郎がその中から誕生したように、古来「尻」の形の象徴であり、性的横溢を含む生きて行くエネルギーの象徴でした。したがって、「性的な放縦」がその「桃」の意味に含まれるのは、必定でありました。桃色も当然、そういう意味に解されます。
「ピンク」は、「桃色」の「性的な意味合い」を引き継いだのです。ピンクチラシを駅前で配られると気恥ずかしいのは、ピンクの罪じゃありません。
色っぽい笑顔をふりまく美女の写真が並べられて「業界一安い!」なんて惹句のあるチラシを受け取ったら、堂々とながめて、「これは、なでしこたちの笑顔なのだ」と、とくとと見入ってください。
私には「もっと米軍に活用して欲しい」などとは決して言いたくないですが。
会田誠の傑作「鶯台図」
鶯谷に張られていたピンクチラシを集めて桜満開の図にコラージュし作品です。(部分)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/1b/e4b6fc000b6045467bb7d2722988a545.jpg)
撮影禁止のところをこっそり撮って拡大しているので、ちょっとボケて撮れていますが、この惚け具合が興味をそそるかも。
もっとはっきり見たい人は、鶯谷駅前でチラシを集めてください。
以上、「ピンク色の研究」でした。
漢字「色」のもとの形は、後背位の交わり。
「色即是空」の「色シキ」は「この世の万物」
そして、「いろ」は、さまざまないろあい、色彩。「色好み」は情交を好むこと。
「いろいろ」は、さまざまな、あれこれの。
レインボーカラーは「どんな色もみんなの色」
世界に色々な国があり、いろいろな人がいて、いろいろな好みがある。
「いろいろな」という和語が生き残っていきますように。
次回から会田誠展について
<おわり>