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ぽかぽか春庭「藁葺き屋根はなつかしいか」

2014-11-01 02:25:53 | エッセイ、コラム
20141101
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十四事日記11月(1)藁葺き屋根はなつかしいか

 11月3日が文化の日であるのは、この日が憲法公布の日だからです。
 この日を新憲法公布の日にしたのは、国民の祝日として、明治時代の天長節、大正昭和の明治節を残すためと思いますが、文化の日制定の公式記録にはそんなこと書いてない。さいしょはこの日の公布を避けたがっていたというGHQをうまく丸め込んだ知恵者がいたにちがいない。憲法記念日は「新憲法施行の日」である5月3日になり、11月3日は、めでたく文化の日となって残りました。明治節が「文化の日」に仮装したとも言える。

 憲法第二十五条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。文化勲章には縁遠いながら、文化的な最低限度の生活は営まにゃならぬでありましょう。私の文化生活は、もらった招待券で絵でも見ることかな。あとは、文化鍋で煮物でもつくるとか。

 文化鍋、、、なんとなく新しげで、しかしあまり重厚なものでないしろものに「文化○○」というネーミングが与えられるみたいです。「鯖の文化干し」とか。
 文化包丁なる刃物があります。庶民が一般的に使っていた菜っ切り包丁に対して、文化的な食生活すなわち肉を食う生活に適する肉も切りやすい包丁、三徳包丁万能包丁が、文化包丁と呼ばれる。
 文化住宅なる住まいがあります。大正時代に洋室と和室を折衷させた住宅が流行し、文化住宅と名付けられました。また、従来の平屋の「長屋」とは異なる2階建ての集合住宅も「文化住宅」と呼ばれたそうです。

 日本の津々浦々に、安普請の文化住宅が雨後の筍のごとく立ち並ぶ時代に、消え去りゆく草屋根の家をせっせと写生して歩いた画家がいました。「民家の向井」と呼ばれた向井潤吉です。
 向井は1950年代から30年間に1000点以上の油絵作品に民家を描き続けました。

 10月31日、世田谷美術館分館のひとつ、向井純吉アトリエ館を訪れました。3度目か4度目になるのですが、今回はじめて、渋谷からバスに乗って、駒場中学校前で下車。世田谷の閑静な住宅街、向井が住み続けた家をそのまま残したアトリエ館ですから、とてもわかりにくい場所にあります。今回は最寄り駅からではなくてバス停から徒歩3分だったので、迷わずにたどり着きました。
 平日の午後。観覧者は私一人。玄関ロビーでお茶などいただきながら、ゆったりすごしました。

 向井潤吉が家族とともに60年間住んだ家。アトリエは、東北に残されていた土蔵を改築したものです。床には絵の具がこぼれた跡などがそのままに残されていて、向井の制作の痕跡をたどることができます。

土蔵を改築したアトリエ


 向井がパり修行時代に描いたルーベンスやコロー、ルノアールの模写や中国で描いた蘇州、大同雲崗で描いた絵の展示に「異国の空の下で」というタイトルがついていますが、いつもの藁葺き屋根茅葺き屋根の民家の絵も、展示されています。

 最初に渡仏した修業時代の裸婦像。フォービズムの影響が見られる。
横たわる裸婦(1928)


パリの風景(1960頃)


塔と壁(中国蘇州1982)


 向井潤吉が描いた草屋根の民家のうち現在もそのままに残っている家は何軒もないだろうと思います。ダムの底に沈んだ家もあり、廃屋となってあとかたもなく崩れた家もある。家が残されたとしても、屋根は葺き替えの費用が高いために瓦葺きトタン葺きに変わっていることでしょう。

岳麓好日(長野県白馬村1969頃)


 向井は、写生旅行の記録として、民家の写真をとり詳細なスケッチの記録を残しています。写真と油絵作品を比べてみると、決して見たままを描いているのではなく、木の姿や家の周囲の景色などを、家が映えるように配置していることがわかります。

今回見た民家のうち、「マタギの家」。北秋田の根子の家です。(1963頃)


 10月31日、渋谷の街にやたらに仮装の若いもんが目立ちました。それも、グループごとに同じ仮装をしているので、おお、「みんなおんなじ」が好きなニッポンジンは、仮装まで「みんなと同じ」でないとやっていけないのか、と思いました。3人娘が、同じ緑色のロングストレートのかつらをかぶり、緑色のストッキングをはいていたり、銀色の塗料で顔を仮面のようにメイクした二人組のワケーシュ、とんがり三角帽子に同じ杖を持った女の子ふたり。仲良しグループを確認し合って「楽しいパーティ」に向かうのでしょうね。

 戦後の画家達がみんなして新しいモチーフを求めていった時期に、ひたすら古く滅びようとしている民家を描き続けた向井純吉。「仮装もみんなでやればこわくない」式の現今の風俗からは遠く離れた画風ですけれど、このような風景に「なつかしさ」を感じる私たちの世代も、また滅びようとしているのでしょうね。
 仮装でハロウィーンパーティを楽しむ若者達には、草屋根の家はすでに縄文時代の縦穴住居と同じなのでしょう。

 地下鉄乗り換え駅のイートインで「鴨そば特盛り」を食べて帰りました。
 仮装した文化の日も、文化なり。エキナカイートインのそばは、きっと外国産のそば粉が仮装しているのだろうけれど、まあ、おいしかったです。

<つづく>
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